地域密着型の店舗で培った「人にやさしく、環境にやさしい」商品を、ネット通販のノウハウを活かして全国へ【AND THE SOIL.(アンドザソイル)/福岡市中央区】

pupu株式会社 代表 尾本 勝征(おもとかつまさ) 氏

 

カントリー調の味わいある看板と、木目のナチュラルな外観も目を引く『AND THE SOIL.(アンドザソイル)』(福岡市中央区)。旬の野菜やオーガニック食品を専門に取り扱うファーマーズストアです。

 

“未来のために、私たちに何が出来るのか”を考えて、お店で出た生ゴミや廃棄食品を堆肥にするコンポストを導入。テイクアウト用ドリンクボトルの再利用やマイカップの推奨など、美しい自然や健康的な暮らしを目指したサステナブルな取り組みを行っています。


同店を運営するのは、「人にやさしく、環境にやさしい」をコンセプトに商品開発と販売を行うECベンチャー、pupu株式会社。代表の尾本 勝征氏に『AND THE SOIL.』出店の意図と、同店におけるSDGsへの取り組み、また、実店舗を足掛かりに計画している今後の事業展開についてお聞きしました。

 

pupu株式会社はどんな会社ですか?

 

2014年9月に設立した福岡のネット通信販売会社です。健康志向の高い人をターゲットに、無添加・オーガニックにこだわった自社ブランド商品の企画開発から販売を行っています。

 

ネット通販の会社でありながら、『AND THE SOIL.』という実店舗を始めたのはなぜですか。

 

通販の強みは無店舗であることです。しかし、通販ではお客さまの声を直接聞くことはできません。一方、実店舗ならお客さまとフェイストゥーフェイスのコミュニケーションをとることができます。

 

それと同時に、地域密着型の店舗として、地元の業者さまや農家さまと直接契約を結ばせていただくことで、弊社と弊社が取り扱う商品への信用を高めていくという狙いもありました。

 

『AND THE SOIL.』では、どんな商品を扱っていますか。商品選びのこだわりも含めて教えてください。

 

「オーガニック」「フレッシュ」「ローカル」をキーワードに、地元の農家で採れる野菜や果物、無添加・オーガニックにこだわった加工品、菓子類・パン・惣菜・ドリンクなどの食品類、日用品、ペット向けの商品などを扱っています。

野菜や果物などの生鮮食品は、生産者さまから直接店舗に持ってきてもらうことが多いため、福岡県内近郊のものが中心です。

 

加工品やお菓子類は、SNSで話題になっているものなどもチェックして、全国各地から仕入れるようにしています。例えば、「トーキョーメープルバター」(※)は、福岡では他に販売しているところがなく、インスタを見て買いにいらっしゃるお客さまも多かったですね。

 

※東京のサンドイッチ専門店がコロナ禍に開発・販売を始めた商品。カナダ産のメープルシロップをじっくりと煮詰め、急速に冷やしながらクリーム状になるまで撹拌してつくったメープルバターに、カシューナッツペーストを合わせた、添加物・低カロリー・高栄養なスプレッド。

 

商品ラインナップの柱を「食」にしたのは、どうしてでしょう。

 

弊社のネット通販も実店舗も、無添加・オーガニックにこだわっている点では、スタンス的に変わりません。

しかし、化粧品や健康食品というジャンルでは、自信をもって開発した商品でも、表現的な制約もあり、商品のよさをしっかり伝えにくいという現状があります。

 

その点、野菜・果物・菓子・調理品など外観、形状から明らかに食品と認識される「明らか食品」なら、商品へのこだわりをより深く伝えていくことも可能です。

 

お客さまの健康志向と食へのこだわりは、年々強くなっていることから、AND THE SOIL.では「食」をメインにしたラインナップで信頼性を高め、それと同時に十分な商品数を揃え、今後のネット事業も「食」中心の展開へシフトしてきたいという意図がありました。

 

『AND THE SOIL.』の立ち上げにあたり、苦労した点などありますか。

 

たくさんあります(笑)。店舗型のビジネスは経験がなかったため、何もかも手探り状態ではじめました。事前にシミュレーションも立てましたが、ネット販売と店舗販売では勝手が違い、読み通りにいかない部分もありましたね。

 

商品の仕入れに関しても、これまでの取引先とはルートがまったく異なるため、一から開拓していきました。店舗設計から考えると、準備からオープンまで約1年はかかったと思います。

 

準備期間1年なら早い気がしますが…

 

一般的にはそうかもしれませんね。ただ、弊社はネット通販会社ということもあり、常にスピード感を意識しています。

 

そのため商品の企画開発から通販サイトの構築・運営までを自社で行っているので、ディレクター、デザイナー、システムエンジニアなど、社内にさまざまな職種のスタッフがいます。

 

AND THE SOIL.』の立ち上げに関しては、求人でオーガニック食品に特化した人材を見つけるのは難しいと判断し、“自分で学べるスタッフ“を意識し、社内でプロジェクトチームを編成しました。

 

ブランディングに関してはデザイナーと一緒に行い、商品セレクトはバイヤー的な役割を担う担当者を置いて、取引いただける業者さまはや農家さまを探していきました。

 

無添加やオーガニック食材を扱うファーマーズマーケットに対する、地元の農家のみなさんの反応はいかがですか。

 

野菜や果物は、農家さまから直接仕入れを行っていますが、想いやこだわりの強い生産者さまが多く、正直、反応はさまざまです。

 

また、オーガニック野菜や果物だけを生産する農家さまの数もそれほど多くないため、常にインターネットで探したり、お付き合いのある生産者の方々に紹介していただいたりしながら、仕入れ先の拡大と商品の品ぞろえを充実させる努力をしています。

 

『AND THE SOIL.』のオープンにあたってSDGsは意識されましたか。

 

3・4年ほど前から私が所属している青年会議所でもSDGsへの取り組みが話題になっており、事業を構築する上でも重要な要素であるという認識はありました。

 

AND THE SOIL.は“共感”を呼べる店にしたいという思いも強かったため、SDGs的な側面は大切にしました。

 

私自身、6歳と3歳の子どもを持つ親でもあることから、海洋プラスティックの問題は特に深刻だと感じています。海洋生物を介して、私たちの体内にもプラスティックが蓄積されていく可能性を考えると、安心して子どもに食べさせてあげられるものが、どんどん少なくなってしまう…。そう考えると、環境保全と食の問題は、他人ごとではありません。何事も「安ければいいというものではない」とも思うようになりました。

 

『AND THE SOIL.』で行っているSDGsの取り組みについて教えてください。

 

まず、福岡や九州を中心とした地域の商品を販売していくことで、地域の活性化につながると考えています。
次に、毎日、必要な量の野菜や果物を、農家さまに届けていただくことで、食品ロスの削減に努め、店舗の商品を販売用のジュースや惣菜に利用することで、食品廃棄もなるべく抑える努力をしています。

 

それと同時に、どうしても出てしまう廃棄野菜やコーヒー豆のかすは、コンポストを利用して堆肥化し、店舗の植木や花壇に使用したり、地域の方にプレゼントしたりしています。

 

 

テイクアウトで提供しているドリンクに関しても、繰り返し使用できるオリジナル・ボトルやテイクアウト用のタンブラー『Keep Cup』(※)をつくり、次回注文時に持参された方には料金割引をするなどして利用を呼びかけています。

 

食品ロスに関しては、現在、外部にテストキッチンをつくり、そこで売れ残った食材を活用した惣菜や加工品などのオリジナル商品を開発して、それを店頭で販売していけるような準備も進めています。

 

※毎日大量に使い捨てされるプラスティックカップの量を減そうと、メルボルンでカフェを運営していたオーナー夫婦によって作られたコーヒータンブラー。その機能性とデザイン性の高さから、現在世界75ヵ国以上で使われている。

 

オープン時と比べ、お客さまのSDGsへの意識は高まっていると思いますか。

 

店舗では、たまに見た目が不ぞろいな規格外野菜や果物の販売も行っているのですが、普通に買っていかれるお客さまが多いため、中身が大丈夫であれば、見た目は重視しないお客さまが多いことは実感しています。

 

ただ、ボトルの再利用やテイクアウト用コーヒータンブラーの使用に関しては、まだそれほど浸透していません。

 

『AND THE SOIL.』で買い物されるお客さまは、どんな方が多いですか。

 

年代は30~40代がメインで、食べ物に気をつかわれている主婦や女性が多いですね。

 

一般的に、健康志向の高い商品=年齢層が高そうというイメージがありますが、弊社のネット通販お客さまの傾向をみても、30~40代女性にオーガニック食品や健康食品に敏感な方が多いと感じています。

そのため『AND THE SOIL.』も、この層をターゲットにブランディングや店舗設計を行い、「共感」を呼べる店づくりを心がけました。

 

集客やプロモーションはどのように行ったのでしょう。

ターゲット層のお客さまは、おしゃれさにも敏感であるため、内装や外観のデザインにもこだわりました。

 

オープンにあたって情報発信は基本的にHPとSNSのみで行い、広告費も一切かけませんでしたが、ブランドコンセプトを徹底したことが功を奏したのか、テレビを含め多くのメディアに取材をしていただき、そのおかげで認知度が高まり、来店者数が増えました。インスタの登録者は、現在もコンスタントに増えています。

 

オープン後、お客さまの声から生まれたサービスなどはありますか?

 

2022年末ごろからお客さまとの交換日記のようなノートを店頭に設置しています。

 

お客さまに店や商品の感想を書き込んでいただき、その書き込みにスタッフが文章でお応えするというものです。「こんな商品を仕入れてほしい」というリクエストがあれば、探して仕入れにも活かすようにしています。

 

店舗では、お客さまがモノを選び、レジで会計したら終わりという流れになりがちなので、それだけでない関係性をつくりたいと思い、あえてアナログ・コミュニケーション方法を取り入れてみました。

 

今後、AND THE SOIL.』を通して取り組もうとしている計画があれば教えてください。

 

先にも申し上げましたが、『AND THE SOIL.』は、弊社が今後「食」を柱に方向転換していく上での第一歩となる事業です。

 

そのため、店舗での収益よりも、店舗を通して培われる信用性や、取り扱う商品数の充実やオリジナル商品の開発などに重きを置きつつ、今後、通販として全国展開を図っていくための自社アプリの開発を同時並行で進めてきました。

 

アプリやWebのサービスを利用することで、実店舗のみでは狭くなってしまう商圏を拡大し、店舗型で開発した商品を全国区で販売していくことができます。

そのため『AND THE SOIL.は、今後、ただ商品を販売するだけではなく、商品をストックする倉庫の役割や、商品の出荷を行う場になることを想定しています。

 

開発中のアプリとは、どのようなものですか。

 

いわゆるネットスーパーのようなものですが、弊社ならではのノウハウを活かした独自性のあるシステムにするつもりです。

 

これまで弊社は、マーケティングに特化したWeb構築を行ってきましたが、今回のアプリではシステム開発から自社で行っています。

 

そのため、開発にかなりの時間がかかってしまいましたが、ようやくベースが完成してきたため、まずは2月下旬ごろ最初のアプリをリリースし、その後、求める機能を随時追加しながらバージョンアップしていく予定です。

 

アプリを通した全国展開は、SDGsの推進にもつながるとお考えですか。

 

アプリを通してAND THE SOIL.』の商品を全国展開できるようになれば、食の分野でSDGsに取り組む生産者さまのこだわりやストーリーを、より多くのお客さまへお伝えすることができます。

 

アプリのユーザー数が増え、商品の販売数が増えれば、地域の生産者さまにもより大きな貢献ができるようになると考えています。そのために、地域の野菜を使った自社商品の開発は優先度を高めにして進めています。

 

店頭の食材を利用した商品開発を行うテストキッチンをつくったのも、この転換に向けた取り組みです。

 

話は変わりますが、御社のオフィスもすてきですね。

 

弊社の社員は、一日中パソコンの前に座り作業することが多いため、オフィスの半分を、打ち合わせや休憩でリラックスできるスペースにあてたり、デスクを一般的なデスクの1.2倍の広さにしたりして、ストレスを軽減できるワークスペースづくりを心がけています。

 

リラックススペースでは、AND THE SOIL.』でテイクアウト用に販売しているコーヒーを飲めたり、仕事帰りに一杯飲めたりするようなバーカウンターも設けています。

 

私が1つめの会社を設立したのは20代後半で、今年38歳になります。社員の年齢も平均20代半ば~後半という若い会社なので、若い世代が気持ちよく働ける環境づくりにこだわっています。

 

最後に、御社が力をいれていきたいこと、また企業としての展望や目標を教えてください。

 

コロナ禍や円高の影響など、昨今はビジネス的にもなかなか先が読みにくい時代です。社会環境や消費者ニーズも目まぐるしく変化していくなかで企業として生き残っていくためには、時代の波に乗りながら、足元を踏み外さないことが大事だと考えています。また、Webとしての強みをいかし、国内需要だけでなく、海外も視野に入れた展開をしていきたいという思いもあります。

 

現在、ペット用品や子ども向け商品といったターゲット別の会社や、海外展開の足掛かりとなる台湾の会社などを複数設立しているのは、そうした時代の波に乗るための1つの方法でもあります。

 

リスクマネージメントはしたうえで、「まずはやってみる」が私のモットー。課題はいろいろとありますが、その都度目の前の壁をクリアしながら、いろんなことにチャレンジしていきたいと思っています。

 

 

●オーナー・尾本 勝征

大学卒業後、務めていた司法事務所を退社し、Web業界へ。2014年、化粧品・健康食品の通信販売会社、pupu株式会社を立ち上げる。2021年、「人にやさしく、環境にやさしい」をコンセプトに旬の野菜やオーガニック食品を専門に扱う『AND THE SOIL.』をオープン。他にもペット用品や、子ども向け商品など、多岐にわたる商品の企画開発および通信販売を行う会社など合計7社を経営。台湾を拠点にした海外展開も始めている。

 

店舗情報

AND THE SOIL.(アンドザソイル)
■TEL:  092-791-7825
■住所:福岡市中央区高砂2-6-1 [MAP]
■HP: https://andthesoil.com
■インスタグラム: https://www.instagram.com/andthesoil.official/