前例のない“女性だけの型枠大工チーム”をつくり、建設業と「型枠工事」のイメージを一新したい【株式会社福島工務店/春日市春日】


“男性社会”のイメージが強い建設業界。そのなかで女性でも活躍できる会社を目指す企業があります。コンクリート建築に欠かせない型枠工事の専門業者『株式会社福島工務店』(
春日市春日)です。

 

2023年完成予定の新社屋に託児所を設置。工事資材の軽量化や、元請け企業への協力要請で、 “女性が働きやすい環境づくり”を推進しています。同社の森 靖崇社長に、建設業であえて女性採用に力を入れる理由と、その先に見据える会社の展望をお聞きしました。

 

森社長が福島工務店に入社した理由を教えてください。

株式会社福島工務店 森 靖崇(もりやすたか)社長


中学校を卒業後、故郷・宮崎で土木や建設などの仕事を点々としていました。18歳のとき「このままではいけない」と身一つで福岡に出てきて、博多駅に置かれていた無料の求人案内誌で「寮があり、型枠工事をしている会社」を探し見つけたのが福島工務店です。

 

もともと型枠工事には興味がありましたが、この会社で本格的な技術を学び、さまざまな現場を任されるようになってから、その奥深さにどんどんのめり込んでいきました。

 

型枠工事の魅力は何ですか?また御社が型枠工事で大切にしていることを教えてください。


建設工事には少なくとも29種類の工種があります。そのなかで型枠工事は、地上にコンクリートの建物を建てる際のトップバッターです。私たちが組んだ型枠に鉄筋や鉄骨を配置し、コンクリートを打ち、初めて建物としての形ができあがるのです。何もない空間に建物を立ち上がらせていく過程と、それができた瞬間の達成感が、型枠工事の一番の魅力です。

 

また、型枠工事で大切なのは、きちんとした強度を備えた型枠を、垂直水平に建てることです。天井なら上から流し込まれるコンクリートの重量に耐えられる、たわまない型枠。壁や柱なら、流し込んだコンクリートの側圧で膨らまないようにしっかり型枠を締固める技術。細かいところでは、型枠同士が重なる部分の組み合わせ具合まで、弊社ではコンクリートが固まった後の細部の美しさにもこだわっています。

 

森社長が入社した約30年前の福島工務店はどんな会社でしたか。


入社当時は社長を含め10人ほどの小さな会社でした。入社したその日に連れていかれた社員寮は、まるでお化け屋敷のような一軒家で…(笑)。求人誌に「第3土曜日と日曜日は休み」と書かれていたにも関わらず休みはほとんどなく、朝8時~夜10時ごろまで働くという過酷な労働環境でした。

 

2005年に社長代行を任されてからは、主にどんなことに取り組まれてきましたか。

 

当時は社員15人前後の規模で、なんとか社長代行の業務にも慣れ、経営も順調と思えたところに2008年のリーマン・ショックが起きました。従業員を守りたい一心で、強引な営業をし、同業社の仕事を横取りするなど、一時は業界で悪名高かったこともあります(笑)。そんな私の経営者としてのあり方を改めるきっかけとなったのが、型枠工事業協会の九州支部長を務める恩師・池之上和夫氏(※)との出会いです。

 

それまでの私は、どんな条件であれ、仕事を取ってきて、社員に仕事とその対価を与えることが、自分にできる最善だと思っていました。しかし、「工事価格を下げて得た仕事では低い賃金しか払えず、結局社員や職人の方々を苦しめることになる。社員を大切に思うのであれば、まずは賃金を手厚くし、退職金などの保証も考えてあげなさい」という池之上会長の言葉に目が覚めました。

 

それを機に、お客さまとの信頼関係を構築しながら、工事を受注したときに仕事をしてもらう職人の方々との横のつながりを強化していきました。すべてにおいて人脈を広げ、一度いただいたご縁をつなぎ強固にしていくことに力を注ぎました。

 

社内的には、社員にきちんと社会保険をかけ、給与を安定させ、ボーナス・退職金・労災の制度を整えていきました。

 

※信頼と高い技術力で全国的にも知られる伊佐工務店(福岡市高宮)の会長。一般社団法人日本型枠工事業協会の九州支部長を務め、九州・福岡の型枠工事業者をけん引する存在

 

労働環境の改善にはどれくらいの期間がかかりましたか。その過程での苦労、改善に対する社員の反応についても教えてください。


改善には着手して10年以上かかりました。苦労したのは、社員の待遇面をよくできるだけの会社の体力(資金力)を蓄えることでした。よかったことは、この課題に取り組んだことで、工事受注の適正金額も明確になり、お客さまと正当な金額で交渉ができるようになったことです。その過程で、かつて弊社がしていたように、他社から安い金額で仕事を横取りされることもありましたが、次第に金額より信頼と技術力で弊社を選んでいただけるお客さまが増え、以前より良好な関係を築けるようになりました。

 

待遇面を改善した直後は、もちろん社員も喜びがんばってくれました。しかし、しばらくするとそれが当たり前になってしまい、一時期は社内がおかしくなった時期もあります。それを機に目下取り組んだのが、企業理念の明確化と発信です。

 

先代から引き継いだ「以心伝心」と、私が大切だと思う「勇往邁進(ゆうおうまいしん)」「一日一生(いちじついっしょう)」の企業理念を、社員全員が胸に刻み、同じ思いで目標に向かっていけるよう、今年3月から月に1回15分間の社員全員ミーティングを行っています。その効果もあり、最近は仕事に取り組む社員の姿勢がより前向きになってきたと感じています。

 

御社がSDGsへの取り組みを意識され始めたのはいつ頃ですか。

 

具体的には、今年の初めごろです。ただ、弊社がこれまで行ってきたことを、SDGsのゴールやターゲットに紐づけていっただけで、認証を受けるため特別に何かをしたわけではありません。

 

弊社では、女性社員の雇用に先立ち、障がい者の雇用にも取り組んできました。その過程で、作業を一つひとつ洗い出し、見直しを行っていくなかで、資材を軽量化したり、工程を簡素化したりすれば、型枠工事の現場で女性が活躍することもできるのではないか、と考えるようになりました。

 

女性社員の雇用に向け本格的に動き出したのは、昨年2021年です。その一環として今年6月1日、福岡県から「子育て応援宣言企業」の認定も受けました。

 

【福島工務店のSDGsの取り組み】

1.女性の積極的な採用
2.女性も活躍するための、ワークライフバランスの実現・資材の軽量化
3.環境保全につながる資材の導入

 

男性社会のイメージが強い建設業で、女性を積極的に採用していこうと考えたのはなぜですか。


型枠工事には細かい作業が必要になります。細かい作業には、男性より女性の方が向いていることが1つの理由です。それに、女性がいると単純に現場が和み、明るくなります。そうすると男性社員も自然とがんばる(笑)。女性も楽しく働ける職場であることをアピールすることで、“男性社会だし、力仕事だし、ハードそう”という業界のイメージを払しょくしたいという思いもあります。

 

基本的には、男性、女性、また障がいのあるなしに関わらず、型枠工事が誰にでもチャレンジできる、やりがいのある仕事であることを広く知っていただきたいという思いが一番強いです。

 

“女性が働きやすい職場づくり”のために行っていることを具体的に教えてください。

2023年完成予定の新社屋イメージ、託児所の設置も予定している


真っ先に行ったのは女子トイレの整備です。また、現在建設中の新社屋には、結婚して子どもができても安心して働けるように、託児所を設置します。

 

対外的には、女性だけの型枠大工チームができたときに受けられるような工事受注の営業を行っています。例えば、あるゼネコンさまには、定型であることによって建築コストを抑えられる建物の商品シリーズがあります。この場合、1つの型枠をマスターすればよいだけでなく、専用の型枠材が軽量な発泡スチロール製であることから女性だけでも十分に工事が可能です。

 

また、工事の元請け企業さまには、女性が働きやすい環境にするため、工事現場に女性用の休憩所やシャワー室を完備いただけるようご協力をお願いしています。

 

建設業界の方々の反響はいかがですか。


すでに多くの企業さまにお話をしていますが、「やめた方がいいよ」という方は一人もいらっしゃいません。前例のない取り組みですが、「すばらしい。絶対にやり遂げてほしい」と応援してくださる方が多いです。

 

建設業界でも大手ゼネコンさまを中心に、女性現場監督などの採用には積極的です。しかし、私たちのような専門工事業者ではまだまだ意識が低いのが現状です。だからこそ、弊社が先頭を切って進めていきたいと思っています。

 

現在の女性社員数と、女性型枠大工の人数を教えてください。

 

女性の型枠大工はまだいませんが、事務や作業を行う女性社員は、大野城市牛頸事務所と西畑資材倉庫計8名います。来年以降は人事部に1名、積算部に1名の女性社員が仲間入りする予定です。

 

弊社では、目下「2027年までに現場で働く女性の型枠大工チームを結成する」ことを目標に、採用活動を行っています。できれば最初のチームは、子育て中の女性5人で編成し、子育ての先輩でもある女性がチームリーダーになってくれるのが理想です。環境や境遇が似ていれば、互いの理解も得やすく、子どものための休養で仕事を抜けることができますし、メンバーが5人いれば、1人・2人の抜けはカバーできるからです。

 

女性社員の採用活動はどのように行っていますか。

ウエストポーチタイプの工具入れは体への負担も大きいが、女性向けにハーネスタイプの工具入れも準備中

まずは、「女性で建築工事業界はムリ」というイメージを払拭するために、親御さんにも安心していただけるような環境づくりに力をいれつつ、これまではリクルートの対象外だった女子大・女子高へも直接求人の案内を行っています。それに加え、取材を受けたり、学校で講話をさせていただいたりして、弊社の思いや業務内容を広く認知していただけるように努めています。

 

その効果もあってか、高校のキャリアアップ教育の授業で、弊社に興味を持ち、職場実習にきてくれる女子生徒の割合も少しずつ増えてきました。

 

環境保全につながる資材の導入もされていますね。

木製の型枠パネルの使用回数は10回ほどだが、プラスチック製は100回以上の使用が可能


7・8年ほど前からプラスティック製の型枠パネルの導入に取り組んでいます。従来の木製型枠は繰り返し使用できる回数が10回ほどであるのに対し、プラスティック製は100回以上です。価格はプラスティック製が木製の約4倍と高めではありますが、エコという観点より、まずは経済効率の高さから導入に踏み切りました。保管場所の確保は必要でしたが、結果的に廃材を減らせますし、木製より軽く女性の大工にも扱いやすい点にもメリットを感じています。

 

プラスチック製の型枠は、従来の木製の型枠より軽量化されている

 

そのほか、福岡県販売代理店として鉄製ラスパネル型枠『ECO WELL MESHU(エコウェルメッシュ) 』の販売および施工も行っています。こちらは一度しか使えず、作業的には手間がかかりますが、コンクリート打設後の解体が不要なため、従来の型枠と比べて廃材が出ず、環境保全に役立つのが特徴です。

 

建設業界における環境保全への意識は、まだそれほど高いとはいえませんが、公共事業の入札では環境保全への技術提案も評価の対象になるため、大手ゼネコンさまにとっても有効な素材です。

 

今後の目標や展望を教えてください。


弊社が明確にかかげている目標は次の2つです。

 

「2027年までに現場で働く女性だけの型枠大工チームを結成する」
「2030年までに女性社員の割合を全体の1/3以上にする」

 

女性だけの型枠チーム結成は、男性社員の活性化につながり、ひいては会社全体の業績にもつながると確信しています。

 

女性社員の割合ついては、現在の社員数が44名ですので、1/3だと約15名になります。今いる女性社員は8名ですから、あと8名増やせればいいわけです。しかし、建設業界ではこの数を達成するのが非常に難しいのです。だからこそ最善を尽くし、なんとか実現したいと懸命に取り組んでいます。

 

会社としては、ずっと言い続けている目標があります。それは「自分が55歳までに九州でNo.1といわれる型枠工事業者になること」です。大事なのは、何をもってNo1かということです。何より「ここに仕事を頼めば安心」という施工力No.1を成し遂げ、それに付随して売り上げ・稼働率・倉庫の整理方法などすべてにおいてNo.1になることを目指しています。現在、売り上げでは2番手ですが、No.1はとてつもなく大きい存在である恩師の会社です。尊敬する恩師の背に追いつき追い越すためにも、まずは型枠工事の認知度を上げ、「型枠工事といえば福島工務店」といわれる会社にしていきたいと考えています。

 

●代表取締役・森 靖崇
株式会社福島工務店(1973年に創業)の三代目社長。同社は、コンクリート建造物を建てる工事現場において、最初の工程である型枠(コンクリートを流し込むための枠)の組立てや解体を行う「型枠工事」専門の建設工事会社。福岡県を中心に事業を展開し、2023年で創立50年を迎える。

1993年、同社に入社した森社長は、2005年、30歳で社長代行を任され、2016年、41歳で代表取締役就任。社長代行時代から社員の就労環境の改善に尽力し、現在は女性も活躍できる「九州No.1の型枠専門業者」を目指して新たな改革を進めている。

 

【福島工務店で一緒に働きませんか?】
詳細はこちら:https://www.isindensin-telepathy.com/recruit

 

企業情報

株式会社 福島工務店
■TEL: 092-589-1708 (大野城市事務所)
■ 住所: 福岡県春日市春日4-2 [MAP]
■HP: https://www.isindensin-telepathy.com/
■オフィシャルブログ:https://www.isindensin-telepathy.com/blog