単なる移動手段の枠組みを超えた新しいタクシーサービスで、高齢化社会や地域観光の活性化に貢献できる企業に【BLUE ZOO株式会社/福岡市中央区】

 

初乗り310円、長距離割引(5000円以上半額)という画期的な料金設定と、質の高いサービスで定評がある『パンダタクシー』。運営するのは、福岡発のベンチャー企業『BLUE ZOO株式会社(ブルーズー)』(福岡市中央区那の津)です。

 

同社は、「SDGs」という言葉もまだない2006年の創業当初から、“高齢化社会における地域公共交通機関としてのタクシーサービス”を掲げ、利用しやすく快適なサービスの提供に努めてきました。

 

2022年6月には、「SDGsドライバー」という新たな職種を導入するなど、独創的な発想で、タクシー業界に“さまざまな変化”を起こしてきた青栁 竜門(あおやぎ たつと)社長に、事業で大切にしている理念や、SDGsに対する考え方、そしてタクシー業界の現状や課題も交えながら、今後の目標や展望などを伺いました。

 

『パンダタクシー』を始めたきっかけを教えてください。

BLUE ZOO株式会社 青栁 竜門(あおやぎ たつと)社長

 

もともと30歳で起業することは決めていました。それ以前にいくつかの職場を経験していましたが、たまたま最後に働いていたのがタクシー会社でした。

 

その際、タクシーを利用する人が自分の想像以上に多いことを知りました。しかし、タクシー会社側が持つ、お客さまへのサービス意識は決して高いとは言えず、お客さま側も他に選択肢がないから利用している、という状況のように感じました。

 

何ごとも実際に経験してみないとわかりませんし、「現場が一番大切」というのが私の持論です。

 

そこで、タクシーの現場で経験したことや感じたことを活かし、料金面だけでなく、サービスの質を上げていくことで、よりお客さまの役に立ち、喜んでいただけるタクシーサービスを創り上げようと考えました。

 

『パンダタクシー』という名称は、お客さまに覚えていただきやすく、親しみを持ってご利用いただきたいという思いからと付けました。

 

創業時は今よりさらに安い初乗り290円だったそうですが、当時のタクシー業界やお客さまの反応はいかがでしたか。

創業時、初乗り290円のパンタタクシーで世の中を驚かせた。

 

『パンダタクシー』は、自分を含めて乗務員3名、タクシー10台でスタートしました。

年端もいかない30歳の若者が社長をしている小さな会社、しかも初乗り料金が破格の低料金ということもあり、タクシー業界では「どうせすぐなくなるだろう」「やれるわけない」というのが、一般的な見方だったと思います。

 

当時は、私もタクシーに乗務していましたが、予約が入ることもほとんどなかったため、明け方の中洲方面でよく流し営業をしていました。その際、明け方まで営業している店のお客さまや従業員の方をお乗せすることも多かったのですが、利用いただいたお客さまが新しいお客さまを紹介してくださることが多かったですね。

 

ある時は、私が『パンダタクシー』の社長だと知ったお客さまから「絶対、うまくいきますよ。がんばってください!」と励ましのお言葉をいただいたこともあります。そうしたお客さまの応援もあり、次第に予約の数も増えていきました。

 

“高齢化社会に役立つサービス”を始め、SDGsにつながるさまざまな取り組みをされていますが、改めてSDGsについてどうお考えですか。

 

SDGsついては、恥ずかしながら、私自身すべてを理解しきれているわけではありません。しかし、SDGsとして語られている目標はどれも、基本的に企業が果たすべき当然の義務ではないかと考えています。

 

私たちはこの社会に生きていますが、同時に生かされている存在ともいえます。そう考えれば、企業がビジネスを通して、社会に利益を還元するのは、至極当たり前のことです。

 

企業が成長していくなかで、自社で気づいた課題に、それぞれの立場で取り組んでいくこと自体が、自然とSDGsの取り組みになっていくのではないでしょうか。

弊社にとってのSDGsへの取り組みは、大きくは4つです。

1.高齢化社会に役立つ満足度の高い移動手段としてサービスを提供
2.そのために必要な乗務員の労働環境を整備し「SDGsドライバー」という職種の新設
3.観光事業や地域活動を通じて、地域経済の活性化に寄与する
4.カーボンニュートラルへの取り組みを通じて大気汚染の改善に努める

すべては企業活動の中で、気づいた課題を基に取り組み出したことになります。

 

1つ目の“高齢化社会に役立つサービス”は創業当時から掲げられていますね。

 

ビジネスとして利益を上げることは大前提です。しかし、利益だけを追求する会社にはしたくありませんでした。そこで、タクシーという分野で、利益を上げられ、社会の問題解決や、人々の役にも立てるようなサービスに挑戦したいと思いました。

 

今ほどではありませんが、創業した約16年前からすでに、高齢化問題が深刻になっていくことは予測されていました。日本の人口比率で一番ボリュームが大きいのは、“団塊の世代”(※1)ですが、この年代の方々がいつまでもバスや電車を利用できるわけではありません。

 

そこで、ドアtoドアの移動手段であるタクシーを、お財布にも優しい料金で、安心・安全なサービスとともに提供することができれば、高齢化社会にも役立つのではないかと考えました。

そのためにも、乗務員の労働環境整備は、重要なことと捉えています。

 

(※1)…第二次世界大戦直後の第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれた世代を指す。出生数約806万人で、総人口に占める割合は約5%以上。人口構造上もっとも規模の大きい世代で、2022年から団塊の世代が75歳(後期高齢者)に到達し始める。

 

乗務員の労働環境について、タクシー業界ではめずらしい固定給を導入されていますが、それはなぜですか。

 

弊社も当初は歩合給にしていました。しかし、お客さまに認知され、ご予約の数が増えていくなかで、乗車距離の短いお客さまのところには乗務員が行きたがらないという事例が見られはじめました。

 

弊社のセールスポイントは、距離の長短に関係なく、お客さまにしっかりとしたサービスを提供することです。それなのに歩合給では、「長距離のお客さま=いいお客さま」、「初乗りや短距離のお客さまは=悪いお客さま」だと、乗務員が勘違いしかねない。そこで、会社をスタートして1・2年のころに、段階的に固定給の導入を始めました。

 

まずは入社から一定期間は固定給にし、その後は歩合給に。次は、売上以外の部分でも乗務員の意識を高めることを目的に、予約の回数やお客さまの乗車回数などの独自の基準で評価する業績給にするといった感じで、距離に関係なく、質の高いサービスを提供できるような乗務員の給与形態を模索していきました。

 

2022年6月から御社で導入された「SDGsドライバー」についても教えてください。

 

「SDGsドライバー」は、SDGsの理念に「働き方改革」を融合させたタクシードライバーの新しい職種です。

 

通常の乗務員の勤務時間が1日12時間であるのに対し、「SDGsドライバー」は1日9時間(それぞれに休憩1時間を含む)とし、本人の裁量で出退勤時間を決めることができます。

 

導入し始めたばかりでまだ希望者はいませんが、タクシードライバーの多様な働き方の選択肢として、今後社内外へ広くアピールしていきたいと考えています。

 

また、タクシー業界は、給与における男女平等がほぼ実現している業界ともいえます。弊社でも、細やかな接客が得意な女性ドライバーの採用には積極的です。

 

「SDGsドライバー」は、結婚や出産などさまざまなライフステージで働き方が変わることが多い女性ドライバーでも、活躍しやすい職種ではないでしょうか。

 

観光事業の目的と具体的な内容を教えてください。

 

日本の人口は減少傾向にあり、それは福岡県においても例外ではありません。人口の減少は、経済力の縮小にもつながりかねない重要な問題です。

 

一方で、出生率を急激に増加させたり、そこに住む人口を増やしたりするのが困難であることも事実です。

 

しかし、海外からお客さまに来ていただき、観光を楽しんでいただくことで、リピーターとなるファンを増やしていければ、少なくともその地域の経済活動に参加する人の数は増やすことができます。

 

福岡市近郊から九州全域への観光をアテンドできるような乗務員を育成することで、そうした地域観光と経済の活性化に貢献しようと始めたのが、「ドライブアテンダント事業」です。

 

ドライブアテンダントとは、CA(キャビンアテンダント)並みの高い接客サービスと、観光案内スキル、海外からの旅行者に対応できる多言語での会話スキルを兼ね備えた、新しい職種です。新卒を中心に採用活動を行っています。

 

ゆくゆくは、このドライブアテンダントを香港やシンガポールなどの海外に派遣し、現地のドライバーと共に、その土地ならではのドライブアテンダント事業を展開していければと考えています。

 

御社ならではのサービスを提供するため、乗務員へはどのような研修をされていますか。

接遇研修の講師を務める現役CA 佐藤さん(左)

 

まず、入社した乗務員全員を対象に、地理・車の修理・接遇を中心とする約2週間の社内研修を行います。

 

接遇研修については、月に1度、乗務員全員または各チームのリーダを集めて、私自らが指導の場を設けています。以前は、CAなど外部からも講師をお呼びしていました。

 

現在は、副業制度を利用して勤務している現役CAもいるため、私とその社員がそれぞれの乗務に同行して、決められた接遇マニュアルをしっかり行っているか、お客さまとの会話に不具合はないかなど、細かい部分までチェックを行い、日々のサービス向上に努めています。

 

観光案内に関しては、通訳案内士を講師として招いて座学を行ったり、年1回ほど希望者を対象に、実際の観光地を訪れてガイドの仕方を学んだりする研修なども行っています。

 

他にも地域活動の中に「パンダジェット号」というものがありますが、どういったものでしょうか?

 

弊社は『パンダタクシー』という名称で、動物の名前にあやかって運営しております。「パンダ」というインパクトのある名称で、これまで沢山のお客様にパンダタクシーを覚えていただきました。

そこで創業10週年の際、感謝の意味を込めて「ジェットパンダ号」と名付けたタクシーが福岡の街を走り、その売上の半分を福岡市動物園に寄付させて頂きました。

動物園施設の整備や改修にお役立ていただきました。

 

カーボンニュートラル(※2)への取り組みは、何かされていますか。

 

自動車からの温室効果ガス排出量の削減と大気汚染の改善を目的として、TTOYOTAのハイブリットLPG自動車「JPNTAXI(ジャパンタクシー)」の導入を、順次進めています。現在の導入台数は7台です。

 

以前のコンフォートに比べて、車両価格が倍近くするため、早急な移行は難しいのですが、お客さまからの評価も高く、乗務員の間でも「燃費がよく、運転しやすい」という声が多いため、今後も積極的に導入を続けていく予定です。

 

(※2)…人間の生産活動などによって排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの量と、森林などによって吸収される量および、技術によって除去できる量の合計の差し引きをゼロしようという考え方

 

御社を含め、現在のタクシー業界の現状、また課題についてはどうお考えですか。

 

弊社でいえば、かなりの人手不足で、常に求人をしている状況です。固定給の導入も含め、乗務員が働きやすい労働環境を模索し、魅力的な条件を提示しているつもりですが、会社が求めるものと、乗務員が求めるものにズレがあるのかもしれません。

 

もちろん、弊社の理念に共感し、10年以上勤務している社員もいます。しかし、入社しても、短期間で辞めてしまう人が多いのも事実です。

 

タクシー業界全体としては、乗務員一人ひとりに「個人事業主」という考え方が根強く、「企業の成長や利益のため」という意識が薄いことが、業界全体の問題ではないかと感じています。

 

「売上を含め、少々のことは自分でどうにかする」という個人事業主的な考え方が、プラスに働く場合もありますが、「自分さえよければ」という利己的な思考や行動が、時に会社のイメージや利益を害し、ひいてはタクシー業界全体の発展を妨げる恐れもあります。

 

企業の使命は、人々の生活や社会に貢献することで、多くの売上を上げ、売上に応じた税金を払い、豊かな社会の循環に参加していくことだと、私自身は考えています。当然、そのなかで社員の給与も上げていくべきです。しかし、会社の売上や利益が上がらなければ、社員の安定した労働環境を守ることもできません。

 

中長期的に会社が利益を上げてこそ、自分にも恩恵がもたらされる。そうした企業人としての意識が、タクシー業界の人材にはもっと必要ではないかと思います。

 

固定給制を取り入れている御社でも、乗務員の定職率が低いというのは意外です。

 

タクシー業界では、固定給という給与形態がデメリットにもなりえるということです。一般的なタクシー会社の乗務員は、「雨の日はお金が降っているようなもの。休むなんてありえない」と思うのが普通です。歩合給では、お客さまを乗せれば乗せるほど収入が増えるからです。

 

それに対し、固定給だと良くも悪くも収入が安定しているため、ある程度は働くが、決して働き過ぎないということも起こりえます。一定の乗客数をクリアすれば、「今日はこれで十分だろうと」安心してしまうのです。

 

固定給という条件に甘んじることなく、プロとして常に最良のパフォーマンスを発揮してくれる人材を育てていくことが、弊社の目下の課題です。

 

今後の目標や展望を教えてください。

タクシー500台、1500人の乗務員体制を達成することが直近の目標

創業当時から、社員に言い続けていることがあります。それは、移動手段としてのタクシーの1つではなく、「バスか、電車か、車か、タクシーか、パンダタクシーか」という独立した選択肢にならなければ、私たちのビジネスは成立しないということです。

 

乗る人に、他のタクシーとは違う『パンダタクシー』として認識していただけるタクシー会社になることが重要です。そのうえで、具体的な直近の目標は、タクシー500台で1500人の乗務員体制を達成することです。

 

現状では、ご利用に1カ月ほど前からの予約が必要になる場合もあります。しかし、そのような状態では、お客さまにとって本当に便利な交通手段とはいえません。福岡市内や近郊なら電話して5~10分でお迎えに上がれるという体制になって初めて、高齢化社会にも役立つタクシーの役割を果たせると思っています。

 

そのためにも、弊社の理念に共感し、高いプロ意識をもって、目標に向かって挑戦していける人材の確保と育成に、より一層の力を入れていきたいと考えています。

 

 

●代表取締役社長・青栁 竜門(あおやぎ たつと)

30歳で、福岡発のベンチャー企業BLUE ZOO株式会社を設立。2007年1月、小型タクシー10台で『パンダタクシー』をスタートし、初乗り290円(現在は310円)、長距離割引(5,000円以上半額)という低料金と、質の高い乗務員のサービスで、福岡のタクシー業界にイノベーションを起こす。現在は、従業員約120人、保有台数約90台。福岡市内・近郊を中心としたタクシー事業を通して、高齢化社会における交通インフラとしてのタクシーサービスの確立を目指すとともに、地域経済にも寄与できる観光ドライバーを育成する「ドライブアテンダント事業」、地域事業などを展開している。

 

【パンダタクシーで一緒に働きませんか?】
■詳細はこちら: https://pandataxi-job.jp/

 

企業情報

BLUE ZOO株式会社
■TEL: 092-406-0176(代表)
■住所: 福岡県福岡市中央区那の津4-4-12[MAP]
■HP: https://bluezoo.co.jp/
■Facebook: https://www.facebook.com/pandataxi8888/