サステナブルかつ機能性の高いシューズで、足元から人々のストレスをなくしていきたい【チル・ジャパン株式会社/福岡市博多区】

チル・ジャパン株式会社 代表取締役社 の弓長玄明(ゆみながくろあき)氏

 

 “人々のストレスを足元から解放すること”をミッションとして、2011年に設立されたシューズブランド『ccilu(チル)』。

チル・ジャパン株式会社(福岡市博多区)は、台湾を拠点とするチル・インターナショナルとともにブランド創設に携わり、日本国内での販売・マーケティングを行っている会社です。

 

ccilu』のコンセプトは、「優れた履き心地」と「環境負荷の低減」を両立するシューズ。安全かつ環境負荷の少ない合成樹脂『ccilucell(チルセル)』をはじめ、コーヒーかすをアップサイクルする技術『XpreSole®(エクスプレッソール®)、使用済みペットボトルを再利用した素材「Green Plax®(グリーンプラックス®)」など、独自のエコ素材を使った機能的かつ軽やかでクッション性に優れた品質の高いシューズを数多く送り出しています。

 

代表取締役社長の弓長玄明(ゆみながくろあき)氏に、ccilu』が誕生した経緯や、シューズ製造を通したSDGsへの取り組み、その先に見据える今後の展望についてお尋ねしました。

 

チル・ジャパン株式会社を創業されたいきさつを教えてください。

 

私は以前勤めていた日本の貿易商社から2007年に独立し、福岡で量販店向けの商品輸入や卸販売を行う会社を設立しました。そこで「もっと付加価値のある新しい商材はないか」と探していたとき、2010年の展示会で出会ったのが、現在のパートナーである台湾のシューズメーカーです。

 

社長のウィルソン・スー氏には、「これまでのようなOEM・ODM生産(※)だけではなく、自社のブランドを持ちたい」という思いが強く、十分な技術力と素材の開発力も備えていました。

 

そこで、日本で成功すれば、世界的にも成功する可能性があると考え、2011年にス―氏と一緒に日本でチル・ジャパン株式会社を設立。商品コンセプトの構築やブランディングを共に行い、シューズブランド『ccilu』として日本から発売することにしたのです。

 

※OEM:Original Equipment Manufacturing/Manufacturerの略語。委託者のブランドとして製品を生産すること、または生産するメーカのこと
※ODM:Original Design manufacturingの略語。設計、生産までを委託して製品を製造すること

 

cciluの特徴と魅力は何ですか。

 

チルのコンセプトは、「人々のストレスを足元から解放する」です。

 

特徴としては、「軽くて柔らかい素足のような履き心地」「環境にやさしいサステナブル(持続可能)なシューズ」、何より「シューズとしての機能性の高さと耐久性」にこだわっています。

 

福岡市に会社を設立したのはなぜですか。

 

2011年頃に、福岡市が“アジアのゲートウェイ”の方針を打ち出していて、設立時に支援をしていただけたことが押しとなりました

 

地方都市・福岡で、世界的な市場を視野にいれたブランドの販売・マーケティングを始めるにあたって、苦労した点はありますか。

 

大手企業のほとんどは東京に拠点を持っているため、なかなか商談まで進まないことも多く、取引先から「どうして、本社が東京ではなくて福岡にあるのか」と聞かれたこともあります。そのため、創業当初は東京事務所をつくり、営業活動を行っていました。

 

最初に販売したモデルは、ボディに穴が開いた、サンダルとスニーカーの間のようなデザインでした。見た目はスニーカー、履き心地はサンダルというコンセプトに興味を持って下さる方が多かったですね。

 

世間的に、クロックスに代表されるような、サッと履けるサンダルが流行っていたこともあり、同じくらい気軽に履けてさらに軽くて抜群に歩きやすいccilu(チル)は、その斬新なデザイン性と機能性から高く評価されたと思います。

 

おかげさまで1年目にして、伊勢丹やマルイ、東京ハンズ、ムラサキスポーツなどにも販路も広がり、展示会でも3日間で百数十社に訪問いただけるなど、反応は上々でした。

 

ただ、そこで規模を一気に拡大しようとしたことから、過剰在庫になり、しばらくは経営的に苦しい時期もありました。2013年後半からネット販売を始め、2017年から販売形態をネット中心に転換を図ったことで、在庫も正常に戻り、経営も軌道に乗り始めました。

 

商品の製造や販売体制はどのようになっていますか。

 

原料は主に台湾から調達して、中国とベトナムにある工場で、独自の素材をつくるところからシューズの製造をしています。

 

デザインなどの商品開発は、主にアメリカと台湾にあるチームで行っていますが、国によって、足の形や色の好みなども異なるため、日本市場に合わせて開発した商品も一部あります。

 

海外の販売に関しては、チル・インターナショナルが統括しており、現在は福岡以外にロサンゼルス・広州・台北にオフィスを構え、50か国以上で販売展開を行っています。

 

独自のエコ素材『ccilucell(チルセル)』は、どのような背景から生まれましたか。

 

EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)という、軽くて柔らかく、弾力もあるなど機能性の高い人工素材であるにもかかわらず、地球環境にも優しいという特徴がある素材があり、cciluのシューズは、このEVAという素材をさらに進化させた独自開発素材をメインにつくられています。

 

もともとスー氏の工場は、シューズ原料の開発から成型まで一貫して取り組んでいたことから、私たちはEVAの摩耗耐久性を1.5倍に強化した素材を開発して、『ccilucell(チルセル)』と名付けました。

 

cciluが、「サステナブルなシューズ」をコンセプトの1つにしているのはなぜでしょう。

 

cciluは、もともと海外市場を視野に入れてスタートしたブランドです。海外では日本よりずっと前から環境に対する意識が高く、消費者にも「環境に配慮された商品を買う」という意識が高まりつつありました。

 

それと同時に、環境に配した素材開発の技術も持っていたため、cciluはブランド創設当初から「サステナブルなシューズ」をコンセプトに商品開発を行ってきました。

 

コーヒーかすをアップサイクルした「コーヒーブーツ」について教えてください。

 

「コーヒーブーツ」は、アッパー、インソール、アウトソールに至るまで、『XpreSole®(エクスプレッソール®)』技術を駆使した、消臭・除湿、防水機能を備えた超軽量なブーツです。直接肌に触れるインナー部分の生地にも、コーヒーかすとペットボトルを再生した糸(他社の技術)を使用しています。

 

 

XpreSole®(エクスプレッソール®)』開発のきっかけは、サステナブルなシューズのための素材を探していたスー氏が、毎年約250億キロにもおよぶ大量のコーヒーかすが捨てられている事実を聞いたことです。

 

廃棄される大量のコーヒーかすのうち、そのほとんどは埋め立て地で埋め立て処分されています。コーヒーかすは、土に埋めるとCO2の約25倍の温室効果と言われるメタンガスを生成させてしまいます。また埋め立てられるもの以外は、焼却処分されるのですが、焼却処分でもCO2を発生させてしまっているのです。

 

一方、コーヒーにはそもそも消臭と除湿の効果があり、コーヒーかすになっても効果は同様であることから、靴の素材としてぴったりだったのです。

当時、コーヒーかすに着目している会社はほとんどなかったことから、コーヒーかすを素材化する研究を始め、約3年かけて独自の特許技術『XpreSole®(エクスプレッソール®)』を開発、製品化に成功しました。

 

使用済みペットボトルを再利用した素材「Green Plax®(グリーンプラックス®)」とはどんなものですか。

 

「Green Plax®(グリーンプラックス®)」は、世界的に増え続けるペットボトルの消費量から、人体への影響も懸念される海洋汚染の問題に立ち向かうべく、cciluが5年の歳月をかけて開発したペットボトルリサイクル素材です。XpreSole®(エクスプレッソール®)と、ほぼ同時期に開発を始めました。

 

このような研究はどこで行っているのでしょう。また、素材用の原料に日本国内のコーヒーかすや、ペットボトルは使われていますか。

 

台湾は原料開発に強く、cciluに使われる素材の研究はすべて台湾で行っています。

 

廃棄物の輸出や輸入には法律的な制限があり、日本で集めた大量の廃棄物を台湾に送り、加工することは現実的に難しいため、素材用の原料のほとんどは台湾国内で調達しています。

 

ただ、ゆくゆくは日本国内のコーヒーかすやペットボトルをリサイクルした素材からもcciluの靴を製造していきたいと考えています。

 

2023年には、その試みの一歩として、大手自動車会社と共に、東京の大展示場にあるカフェのコーヒーかすをリサイクルした素材からコラボシューズをつくる予定です。

 

一般的な消費者意識については、どう思いますか。

インナーをつけたまま履けばスニーカー、インナーを外せば水の中にも入れるサンダル、インナーのみで室内履きになる3wayシューズなども人気

 

サステナブルな素材を使った商品は、原料費が高くなるため、どうしても値段が高くなってしまいます。

 

日本では、機能・品質が同等の場合、サステナブルで値段が少し高い商品より、サステナブルではない安い方の商品を購入する傾向が強いといえます。つまり、「サステナブル」であることが、商品の購買を促すまでに達していないということです。

 

実際、cciluは日本より市場的には小さいはずの台湾の方が多く売れていて、これは、台湾の消費者の方がSDGsへの意識が高いことの現れだと思っています。ただ、日本でも、数年後には必ずSDGsの意識が消費行動にも繋がってくると考えています。

 

とはいえ、私たちは「リサイクル素材を使っているから”高くて当たり前”の製品を買ってもらいたい」と思っているわけではいません。

 

あくまで、除湿や消臭効果といった機能や、洗濯機で丸洗いできるような手入れのしやすさなど、シューズとしての付加価値の高さにこだわり、自信をもって選んでいただける商品づくりをしています。

 

履き心地にこだわり、片足51個のパーツを独自製法で組み合わせることで、動きに合わせ底が曲がりやすく、足圧を分散させることから長時間履いていても足が疲れにくい『SKIV-ON(スカイブオン)ソール』などの開発も行っています。

 

御社は、クラウドファンディングにも挑戦されていますね。

 

「コーヒーブーツ」のような商品は、商品自体にストーリーがあります。クラウドファンディングに関心のある方は、そうしたストーリーにも興味を持ってくださりやすいのではないかと考え、クラウドファンディングではcciluの知名度を高めるプロモーションの一環と市場テストを兼ねて、商品の先行販売を行っています。

 

代表的なものとしては、「コーヒーブーツ」が、『キャンプファイヤー』というクラウドファンディングの靴部門で歴代1位(2022年12月時点)の1400万円以上を達成。『GREENPLAX RENEE』(グリーンプラックス レニー)』(15本のペットボトルをスニーカーに変身させたスニーカーで、衝撃吸収力の高さと超軽量のキューブ型靴底が自慢)は、2021年ごろ、『マクアケ』というクラウドファンディングで500万円以上の支援金を集めました。

 

クラウドファンディング後の反響はいかがでしたか。

 

展示会でも「クラウドファンディングでみた」とお客さまから声をかけられることが多く、クラウドファンディングで話題にしていただいたことで、テレビ局などのメジャーな媒体でも弊社のシューズをサステナブルなアイテムとして紹介していただく機会が増えました。

 

さらに、「サステナブル」をきっかけに購入していただいたお客さまが、その履き心地や歩きやすさ、軽さを気に入ってくださり、そのままcciluのリピーターになってくださることも多いですね。

 

現在はどのような商品や素材の開発に取り組んでいますか。

片足を51パーツに分け、骨の動作に合わせて動く「skiv-on(スカイブオン)ソール」。立つ・歩くなど、足にかかく衝撃を分散させるため、疲れにくい特徴がある

チル・グループ全体としては、竹、牡蠣の殻、トウモロコシ、魚のウロコなどをリサイクルした靴づくりに取り組んでいます。

 

例えば、魚のウロコはかまぼこなどの加工品をつくる際、大量に出るため焼却処分されますが、燃やすと二酸化炭素を排出してしまいます。しかし、魚のウロコには良質なコラーゲンが大量に含まれているため、そこから抽出したコラーゲンを配合した糸をつくり、生地にすれば、肌に優しく保湿効果も高い優れたインナーをつくることができます。

 

魚のウロコをリサイクルした靴は、すでに商品化され、クラウドファンディングで一度先行販売も行ないました(一般発売の時期は未定)。

 

土に埋めて分解できる原料の開発も同時進行で進めており、最終的には、100%生分解(※)のシューズをつくることを目指しています。

 

※バクテリアや菌類などの微生物によって、物質が分解され、自然に還ること

 

社内で行っているSDGへの取り組みはありますか。

 

ネット販売中心に方向転換してから社員の数も少数精鋭にして、経理、総務、労務、物流はすべてアウトソーシングしています。現在の社員は、社長の私と非常勤役員1名、社員5名の計7名です。

 

偶然にも現在の社員は全員女性なのですが、社員の状況に合わせて、フレックス勤務やリモートワークなど、さまざまな就業スタイルを取り入れています。女性管理職の登用割合も100%で、育児休暇・介護休暇・勤務時間の時短制度などの制度も充実させ、残業もなるべくしないように呼び掛けています。

 

今後、御社が力をいれていきたいこと、また企業としての展望や目標を教えてください。

 

cciluのシューズのすべてで使われている素材の「チルセル」は、ドイツで高い基準のテストを受け、人体にも安心安全という認証を受けています。またチルセルという素材は、もともと石油由来の素材であるため、細かく分解し、圧縮することで油類に戻すことが可能です。

 

そのため、将来的には100%リサイクル素材でつくった靴を販売し、お客さまが履かなくなった靴を自社で回収。それを油類に戻し、工場のエネルギーとして再利用するという、チル内での持続可能な循環サイクルの構築を目指しています。

 

また台湾では、自社でペットボトルの回収センターをつくり、通常の3倍の価格でペットボトルを買い取ることで、いわゆる貧困層を支援する活動を行っています。ゆくゆくは、日本の廃材をリサイクルした素材で商品をつくり、そうした取り組みもしていきたいと考えています。

 

こうした目標を1つ1つ実現していくためには、私たちの取り組みを多くの方や企業様にも知っていただくことが先決です。弊社のような中小企業だけでは、できることに限界があるからこそ、SNSや展示会などで情報を発信しつつ、目的を同じくする大企業などとのコラボにも積極的に取り組んでいきたいですね。

 

●代表取締役社長・弓長 玄明

貿易商社で長年にわたり量販店向け商品の輸入・卸に携わり、2002年、同社の上海事務所を立ち上げ、首席代表に就任。2007年に独立し、福岡市で会社を設立する。2010年、展示会でウィルソン・スー氏が社長を務める台湾のシューズメーカーと出会い、2011年、チル・ジャパン株式会社を設立。とともに開発したシューズブランド『ccilu(チル)』を、世界に先駆け日本からスタートさせる。

チル・ジャパン株式会社は、2022年環境や地域社会に配慮した公益性の高い企業として、国際的な認証制度『B Corp(Bコープ)』の認証を取得。安全かつ環境負荷の少ない合成樹脂「ccilucell」をはじめとしたエコ素材を積極的に使用し、環境に優しいだけでなく、軽やかでクッション性に優れたハイクラスな履き心地のシューズの販売・マーケティングを展開している。

 

企業情報

チル・ジャパン株式会社
■TEL: 092-409-2021
■住所:福岡市博多区榎田1-9-1 榎田ハヤシビル2号室 [MAP]
■HP: https://www.ccilu.co.jp
■インスタグラム:https://www.instagram.com/ccilu.japan/?hl=ja