竹をおいしく食べて消費する。国産メンマの製造と販路拡大で、竹林問題や里山保全に取り組む。【株式会社タケマン/糸島市加布里】

株式会社タケマン 代表取締役 吉野優子(よしのゆうこ)氏

『株式会社タケマン』(糸島市加布里)は、「本気でめんまを作る会社」を理念に、2013年創業したメンマ専門の製造販売会社です。独自の製法と歯ごたえにこだわり、自社工場で製造加工したラーメン店向けの業務用メンマや一般消費者向けの土産用メンマ商品を販売しています。

 

メンマのプロ集団として、全国2,000店舗以上のラーメン店との取引実績を誇る同社が、創業時から取り組んできたのが国産メンマの開発です。日本で一般的な孟宗竹(もうそうちく)を原料に、国内初の純国産メンマを製造し、その流通を確立。2016年には、地元・糸島の孟宗竹をつかった土産商品「糸島めんま 黒/赤」を発売しました。

 

また、メンマづくりに欠かせない竹の確保に際して、山の地権者が抱える放置竹林による鳥獣被害や、侵入竹林などの現状を知り、竹林整備にも尽力。若竹を食べて消費するというサイクルで、地産地消・森林保全に貢献しています。

 

御社がメンマ専門の事業を始めたいきさつを教えてください。

 

創業者は私の主人で、今は会長をしている吉野秋彦です。
彼はメンマを製造する会社に20歳ごろから8年ほど勤めており、そこでメンマの製造・開発に携わっていました。産地である中国の工場に勤務していた経験もあり、その知識を活かし、「日本のメンマ業界を変えたい」と2013年に起業しました。

 

メンマとは、そもそもどんな食べ物でしょう。

 

中国南部や台湾に成育するマチク(麻竹)を乳酸発酵させた食品です。不溶性の『食物繊維』が含まれていることから腸活によいといわれ、日本ではラーメンのトッピングとして食べられることが多いため、「麺にのせる麻竹」ということで「メンマ」と呼ばれるようになりました。

 

また、ラーメン店などで使われているメンマをはじめ、日本で一般的に流通しているメンマは99%が海外産です。というのも、メンマの材料となるマチクは、原料を国内で調達すること自体が難しいからです。弊社が製造しているメンマも90%以上は中国産のマチクを原料にしています。

 

国産メンマをつくろうと思ったきっかけや、その経緯について教えてください。

糸島の孟宗竹を使った糸島めんま

 

会長が会社員時代に、ラーメン店店主から「国産メンマはないのか」と言われたのがきっかけです。
国産メンマの開発には、当時から個人的に取り組んでいたようですが、その会社では実現に至らず、起業を機に本格的に開発に着手しました。

 

当初は、マチクのある沖縄にたびたび出向き、国産メンマの開発に取り組んでいたのですが、沖縄のマチクを福岡に持ってくるには、気候や輸送の面で問題がありました。そこで、身近な孟宗竹でメンマができないかと思い開発を始めました。

 

糸島の竹林には、真竹(まだけ)や孟宗竹(もうそうちく)が多く自生していますが、真竹より孟宗竹のほうが竹稈(ちくかん…幹にあたる部分)が太いため、メンマとして加工できる部分も大きくなります。そのため弊社は、孟宗竹にターゲットをしぼって開発を進め、国内初となる純国産メンマの製造および流通を確立しました。そして、2016年に糸島産の孟宗竹でつくった土産用の純国産メンマ「糸島めんま 黒/赤」の販売を始めました。

 

それまで国産メンマがなかったのはなぜでしょう。

 

それは単純に、竹に対する日本と中国の食文化の違いではないでしょうか。日本ではタケノコを食べる文化はありますが、タケノコの時期を過ぎると、竹は食用とみなされません。一方、中国では2メートルほどまで伸びた竹を加工して食べるのが普通であるため、市や町ぐるみで収穫を行い、メンマづくりをしています。

 

日本でも山を持っていらっしゃる方は、旬を過ぎたタケノコを干して食べたりしていたようですが、日本では伸びたタケノコでも食べられると知っている人が、そもそも少ないのだと思います。

 

国産メンマと海外産メンマはどう違いますか。

 

まず食感が違います。中国産のマチクでつくったメンマは、切り干し大根にも似たゴリゴリした食感があり、そこが中国産メンマの良さでもあります。一方国産は、タケノコのようなサクッとした歯切れのよさがあります。特に、弊社では筋が残らないような処理を施しているため、歯ごたえが柔らかいのが特徴です。

 

もう1つの違いは、においです。海外産のメンマには発酵食品特有のにおいがありますが、竹自体が持っている成分の違いから、国産メンマは発酵臭が少なく、メンマのにおいが苦手という人にも食べやすいと思います。

 

全国ネットのTVでも紹介されるなど、『タケマン』の知名度は全国区のようですね。

 

とんでもございません、ただ…メンマ専門のメーカーはめずらしいうえに、全国で初めて国産メンマを製造したということで、みなさんおもしろがって声をかけてくださるのではないでしょうか。

 

ラーメン業界にメンマを卸している会社の中で、ラーメン店様へ直接販売をしている会社はあまりないので、少しずつ名前を覚えていただいてきたように感じております。

 

また、作り手の顔が見えない製造会社が多いなか、会長、私をはじめ、社員も顔出しをして活動しているので、覚えていただきやすいようです。

 

2022年4月には、「メンマしか売っていないお店です」というショップもオープンしましたね。

 

それまで、「糸島めんま」などの一般向け商品は、弊社のオンラインショップやデパートの催事のみで販売していましたが、お客さまから「どこに行けば買えるか」と聞かれる機会も増えてきたため、糸島観光に来た方や近隣の方が、土産としてご購入いただけるよう、2022年のゴールデンウィーク前にショップをオープンさせました。

 

ショップは、現在の会社から車で5分ほどのところにあり、土日祝日のみ営業しています。以前、事務所兼工場として使っていた場所で、店内から工場の様子も少し見ることができます。工場は平日しか稼働していないため、実際の製造風景は見られませんが、工場の雰囲気は感じていただけると思います。

「メンマしか売っていないお店です」>>https://menma-omenma.stores.jp/

 

国産メンマの開発・製造で苦労されたのはどんなことですか。

 

一番難しかったのは、発酵のさせかたです。メンマ独特の風味や食感はこの発酵期間に生まれます。
発酵は収穫後2~3週間かけて行いますが、孟宗竹の場合、中国産のマチクと同じようにつくっても、うまく発酵しないのです。発酵が進みすぎると腐敗につながります。発酵がうまくいかず、仕込んだメンマを捨てなければならないこともありました。

 

気候や、原料をゆでた後の温度、仕込む量などでも発酵の仕方は微妙に変化するため、毎年やり方を変えながら、よりおいしい国産メンマをつくるための研究を続けています。

 

 

また、糸島での国産メンマづくりは、材料となる竹を集めることから始まりました。竹林を見つけては、その地権者の方を訪ね、「メンマをつくるため竹を使わせていただきたい。その代わりに山をきれいにします」とお願いして回ったのですが、はじめは「何者だ」と言う感じで、断られることも多かったですね(笑)。

 

それでも地道に活動を続け、次第に「メンマをつくる会社」として名前を覚えていただくようになり、地域の信頼・安心を少しづつ得られ、許可をいただける地権者さんや山も増えていきました。今では毎年8か所ほどの山で原料の収穫を行っています。

 

国産メンマは、定期的に製造できるのでしょうか。また、年間どれくらいの量をつくっていますか。

 

原料となる若竹の収穫時期が、1年に1回4月末~GWごろと決まっているため、その2~3週間の間に1年分のメンマを仕込みます。
収穫した竹を発酵させ、天日干しを行い、1年間保存して、製造時に自社工場でゆっくり時間をかけて湯戻しし、味付けをしていきます。

 

弊社では約5人体制で、原料用の竹を収穫していますが、確保できる量は5トンほど。今は、全国的に国産メンマをつくろうという動きが広がり、そうした方々に収穫方法をお教えし、協力いただける方々から原料の買い取りも行っていますが、それでも合計10トンほどです。

 

国産メンマの需要が少ないのはどうしてでしょう。

 

近年国産メンマが広がってきましたが、まだまだ認知度が低いように感じます。そして作り手も少ない現状があります。我々の活動を通して多くの方に知っていただきたいと思っております。

 

孟宗竹は日本各地で獲れるのに、原料確保が難しいのはなぜですか。

 

一番の理由は、山に入って収穫をする人が少ないことです。

 

山作業は重労働であり、良いメンマを作るための知識と経験が必要です。2メートルほどに伸びた若竹は、下の部分がすでに竹になりつつある状態で、節の付近にもジャリっと硬い部分があります。それを見極めて、収穫やトリミングを行わなければなりません。

 

弊社では、社員にノウハウを共有したうえで収穫を行いますが、外部から原料を買い取る場合は、この見極め方を徹底し、原料の質を一定に保つことがなかなか難しいのです。

 

国産メンマの製造を通して、糸島での竹林整備にも取り組まれていますね。

 

竹林の地権者である山主の方々と関わっていくなかで、放置竹林や侵入竹林の深刻な問題を目の当たりにするようになりました。
竹は伸びるスピードが速く、繁殖力も強いため、放っておくと竹林面積はどんどん拡大していきます。

 

そうした竹林では、イノシシなどの鳥獣被害があったり、伸びすぎて折れた竹が倒れたままの状態で、山主の方も入れない状態になっていたり、森林に侵入してきた竹で日光が遮られ、木が枯れてしまうことも多々あります。実際、山主さんから「伸びて電線に垂れかかっている竹の枝を切ってほしい」と依頼されたり、「竹が自宅の窓に向かって生えていて、いつ倒れてくるか不安」という相談を受けたりしたこともあります。

 

そんな状況を見るたびに、「困っている山主さんたちのために、何かしなくては」という使命感が強くなっていきました。

 

弊社だけでできることには限界がありますが、時間をつくっては竹林の整備を行っています。特に今頃(2~3月)は春の収穫に向け、頻繁に山に出かけていますね。
山主のみなさんも私たちの活動を喜んでくださり、そこで獲れた竹でつくったメンマをお届けすると、大変喜ばれます。

 

竹の収穫や竹林整備で、課題となっていることはありますか。

 

やはり人材確保です。竹は同じ時期に一気に生えてくるため、収穫はスピード勝負です。弊社のマンパワーでは、現状の8か所が限界で、今でさえ、収穫し切れていない状況です。
だからといって、春の収穫シーズンだけ一気に人員を増やしても、さきほどお話ししたように、収穫の仕方を一から教えなければなりません。

 

その打開策として今年試そうとしているのが、外国人技能実習生(要確認)の雇用です。季節ごとに日本各地へ外国人就農者を派遣してくれる団体から3人ほど来ていただく予定です。今年うまくいけば、来年から経験者を継続的に派遣してもらうことで、この状況を改善していけるのではないかと考えています。

 

地元の高齢者や女性の雇用にも積極的に取り組まれているそうですね。

若竹の収穫には、山に入ることに慣れている高齢者も即戦力となるため、採用も積極的に行っています。足腰が強い高齢者の方も多く、工場より山にいるほうがいきいきしている60代の男性社員もいます(笑)。

また、加工場内には、重たいものを持つ作業を減らすための機械を導入することで、高齢者・女性の雇用も増やしていければと思っています。

 

以前、博多女子高校の生徒たちと行っていたプロジェクトについて教えてください。

 

2018年6月~2019年6月にかけて、博多女子高校の生徒たちと一緒に、糸島産のメンマを使ったスナック菓子『博多BARIMEN(バリメン)』の商品開発を行いました(※)。
約40人の女子高生たちが参加してくれ、一緒に山に入り、竹の収穫から体験してもらいました。

 

このプロジェクトで、女子高生たちに国産メンマづくりの苦労や、放置竹林の問題、竹林の整備活動について知ってもらえたことは、とても有意義だったと思います。

 

 

この取り組みから、加布里小学校の生徒たちが授業で工場見学に来てくれたり、加布里小学校の授業で私たちの活動について話す機会をいただいたりという機会も増えました。
今後は、若い世代にも地域の森林保全に関心を持ってもらえるよう、こちらからもアピールしていきたいですね。

 

※「糸島市の事業者」「博多女子高校トータルビジネス科」「糸島市」の産学官に、「糸島市食品産業クラスター協議会」、「㈱アジアン・マーケット」が加わり、マーケティングから商品開発・プロモーション・販路開拓までを行う地方創生プログラム。『博多BARIMEN』の販売は終了

 

最後に、メンマのプロ集団『タケマン』としての夢を教えてください。

 

弊社の商売の柱は、業務用メンマの製造販売です。そのため私たちは、ラーメン店さまがつくりたいラーメンの味を理解したうえで、それを完成させる重要な要素としてのメンマを提供できる「最高パートナー」になりたいと考えています。

 

一方、一般のお客さまに対しては、メンマ=ラーメンの具というイメージを脱却できる、新しいメンマの楽しみ方を提案していきたいと思っています。何より、メンマのプロ集団として私たちが大切にしているのは、竹の特徴に合わせた“おいしいメンマ”づくりです。現在は、中国産のマチクを使い、メンマならではのうま味や食感を楽しんでいただける、商品を開発中です。

 

国産メンマに関しては、品質をより高め、製造量を増やしていくことを目標にしています。国産メンマの消費を増やしていくことで、食用としての竹の需要が増え、それが竹林の環境整備や里山保全にもつながります。


しかし、「国産だから」「竹林整備に取り組んでいるから」という理由で、お客さまが商品を買ってくれるわけではありません。だからこそ、国産メンマを喜んで食べていただけるような商品の開発に力を入れてまいります。

 

●代表取締役 CEO・吉野優子

2013年、夫・吉野秋彦氏が福岡市西区西都にて起業。ラーメン店向けの業務用メンマを中国から輸入し、販売する事業を始めると同時に、国産メンマの開発製造に着手する。事業拡大に伴い、糸島市に工場兼事務所を移転。2022年1月、秋彦氏より社長業を引き継ぎ、株式会社タケマンの代表取締役 CEOに就任。会社経営と社内の統括をしながら、会長となった秋彦氏とともに、メンマ=ラーメンという固定概念にとらわれない調理法の提案や、国産メンマの製造開発を通して、地産地消や地域の竹林整備に取り組んでいる。

 

企業情報

株式会社タケマン
■TEL: 0120-020-396
■住所:糸島市加布里5-9-1 [MAP]
■HP: https://mennma-takeman.jp/
■LINE公式ID:@takeman-menma