「100年企業」として持続可能な社会へ貢献しつつ、八女から世界へ和菓子のおいしさを伝えていきたい【隆勝堂フーズ株式会社/八女市大字蒲原】
隆勝堂フーズ株式会社(八女市大字蒲原)は、1924年(大正12年)11月に八女でお茶菓子を扱う和菓子店として創業しました。現在は筑後地区を中心に、和菓子・洋菓子・ベーカリーなど18店舗を展開。地元のファンに愛され続け、2023年11月に創業100年を迎えます。
お菓子業界においては、紙でのやりとりが主流だった納品書・請求書の電子化を積極的に進め、紙の使用量を大幅に削減。自家消費型太陽光パネルを設置し、菓子製造に利用。さらに、子どもたちを支援する地元の団体へパンの寄付を行う、女性が多い職場での働きやすい環境づくりに取り組むなど、「100年企業」として、持続可能な社会づくりに貢献しています。
鬼頭社長の経歴を簡単に教えてください。
もともとは千葉県柏市出身で、学生時代はアメリカに住んでいたこともあります。大学卒業後は、東京の証券会社に勤務していましたが、三代目社長(現会長)の山口隆一氏の娘と結婚したことから、2012年11月ごろ八女市に移住し、弊社の取締役に就任しました。
弊社の業務に直接携わり始めたのは10数年前ですが、前職の仕事柄、現会長とは20代のころから経営について話し合いをする関係でした。取締役としては、製造・販売・人事など現場の仕事をひと通り経験したうえで、社内で必要な業務の見直しや改革を続け、2022年6月に代表取締役社長に就任しました。
御社がお菓子づくりで大切にしていることは何ですか。
一代目、二代目の時代は、「八女茶に合うお茶請けのお菓子」がコンセプトで、あえて八女茶を使ったお菓子はつくっていませんでした。
しかし、八女といえば、お茶の産地として有名です。「せっかく『八女茶』というブランド茶があるのだから、それを使ったお茶にもコーヒーにも合う和菓子をつくろう」と、三代目社長が方針を転換し、30年ほど前から八女の玉露や抹茶を使った商品づくりを始めました。素材に関しても、昔から「体に優しい素材」と「信頼おける産地の原材料」にこだわった商品づくりを続けています。
お菓子づくり、パンづくりは、そのほとんどを手作業で行っています。また、作りたての味にこだわり、店舗のほとんどがセントラルキッチンから30分以内に配送できる筑後地区以内にあるほか、ベーカリーについては、全店が焼きたてのパンを提供できる厨房を備えたリテールベーカリーとなっています。
人気の看板商品を2つほど教えてください。
弊社を代表するのが、『蹴洞(けほぎ) 』です。初代の山口長市が中国・上海で菓子職人をしていた人物と協力し、昭和23年に開発したお菓子で、パワースポットとしても知られる日向神峡(ひゅうがみきょう)の蹴洞岩(けほぎいわ)にちなんで名付けられました。
当時は、手に入りにくかったバターとピーナッツバターを使いサクッと焼き上げた皮で、卵と生クリームを加えた口どけよい卵黄餡を包み、中央にクルミをトッピングした和洋折衷の饅頭は、福岡県南部では知る人ぞ知る銘菓として長年にわたり愛されています。
もう一つは、八女茶の中でも希少な星野の抹茶を生地と餡に練り込んだ『御茶萬(おちゃまん) 』です。
生地を一週間以上熟成させ、さらに焼き上がった饅頭をしばらく寝かせて置くことで生まれる、生地と餡が一体となったしっとりした食感が自慢で、抹茶と、厳選したミルクとバターの香りが融合した洋風の味わいで人気です。
SDGsへの取り組みを始めたのはいつごろですか。また取り組み始めたきっかけや理由を教えてください。
本格的に取り組み始めたのは5年ほど前です。SDGsというよりは、業務の合理化を図る目的で始めました。
菓子業界だけではないと思いますが、それまで取引業者との注文ややりとりはFAXや電話が主流で、電話で受けた注文を伝票に起こしたり、FAXで入った注文をパソコンで入力したりという煩雑な作業が多い状態でした。
インボイス制度の導入に備えるという意味でも、そうした業務をスマホ、タブレット、PCで行えるシステムを導入し、書類の電子化・ペーパーレス化を図っていきました。その結果、2018年は3,000~4,000枚の紙を削減できました。これは推計約20本の木を保全できたことにあたる量です。現在は、書類の約8割は電子化しています。
書類の電子化・ペーパーレス化にあたって苦労された点、また今後も進めていくうえで難しいと感じる点はありますか。
取引先も一緒になって、電子化できるシステム(有料)を導入していただけなければ、電子化はできません。弊社が取り組みを始めたとき、すでに電子化を進めていた5割ほどの取引会社では、問題なく実現できましたが、先方にシステム担当者がいない場合や、システムの導入を検討していない会社に対しては、なかなか電子化を進められないのが現状です。
また、電子化は進めていても、納品書や請求書が紙で届くところはいまだに多く存在します。紙があった方が安心という感覚も根強く、完全電子化にはまだ少し時間がかかりそうです。
ペーパーレス化については、受発注だけでなく、社内会議での紙資料の削減も並行して進めています。共有する必要のある資料は、事前にメールで送ったり、データで共有したりしておけば、紙としてプリントアウトする必要はありません。社員一人ひとりが、無意識に使っているコピー費へのコスト意識を高め、無駄を省いていくことも重要だと思っています。
その他に行っているSDGsの取り組みがあれば教えてください。
約2年前から本社工場の屋根に太陽光パネルを設置し、製造時の電力として使用しています。工場で使用する電力の3割ほどをこの太陽光エネルギーでまかなえるため、昨今の燃料高の影響も比較的抑えられ、助かっています。
各店舗で扱う紙袋には、植林などの環境保全活動に取り組む公益財団法人OISCA(オイスカ※)のマークが入ったものを使用しています。これは、袋代の一部がオイスカの活動費となるしくみです。
2023年2月のバレンタインデー時には、仕入れ量に応じた金額をカカオ農家のある貧しい地域に寄付できる卸会社から、商品用のチョコレート原料を購入するという試みも行いました。地元への貢献としては、家庭の都合で食事などを満足に取れない子どもたちを支援する筑後地方の団体に、ベーカリーのパンを寄付しています。
※The Organization for Industrial, Spiritual and Cultural Advancement-Internationalの略称。「すべての人々がさまざまな違いを乗り越えて共存し、地球上のあらゆる生命の基盤を守り育てようとする世界」を目指して1961年に設立。本部を日本に置き、41の国と地域で活動を展開する国際NGO。人材育成に力を入れ、主にアジア・太平洋地域で農村開発や環境保全活動を展開している。
御社では約200名の従業員中7割が女性ということですが、女性が働きやすい職場環境づくりについてはどのようなことに取り組まれていますか。
販売店が多いことから、自然と販売員は女性が多くなります。しかし、私が取締役になったころは、まだ女性従業員の労務環境が十分に整っているとはいいがたい状況でした。そこで、女性が働くうえでは欠かせない産前産後休業・育児休業・育児時短勤務などの整備を進めてきました。
現在は、産休、育休を終えた女性従業員の多くが職場に復帰し、活躍する女性の数は増えてきましたが、女性管理職は依然として少なく、管理職については残業もあることから、出産・子育てなどを機に離職する女性が多いのも事実です。
販売店で店長をしていた社員が、産休後に復帰し、総務に移動するというような事例を含め、優秀な社員が産後職場に復帰しやすいような職場づくり、さらには女性管理職の割合20%以上を目指して、引き続き、評価基準の見直しや、女性社員の育成を進めています。
新社長として、もっと改善していきたいことや、そのために社員に望むことはありますか。
せっかくのご縁で一緒に働いているのですから、より長く一緒に働きたいですし、給料ももっと出したいという思いは常にあります。そのためにも、社員一人ひとりが会社の一員であるという自覚を持ち、もう少し経営的な視点を持ってもらえるようになってほしいと思っています。
例えば、八女市の人口や歴史をどれだけ知っているか、あるいは興味をもつかで、物の考え方や見方は変わってきます。
私が八女市に引っ越してきた当時は人口約68,000人でしたが、現在は約6万人。年率で約1%減っています。そのなかで65歳以上の高齢者の割合が約4割。残りの2割近くは子どもだと考えると、積極的に経済活動に参加している層は5割未満ということになります。
こうした状況で、今後もずっと筑後地区だけにとどまり、事業を発展させていくのは難しくなっていくと考えています。八女を中心とした店舗を残していくことを考え、2018年以降は福岡市内のデパートなどにも出店を始めました。今後もさまざまな問題提起をしながら、社員にも自分事として弊社の可能性を考えてほしいと考えています。
創業100年の老舗として、今後の展望や夢を教えてください。
今後は他エリアへの出店も含め、展開エリアを広げていきたいと考えていますが、これはあくまで八女に根付いた商売を成立させていくための手段です。
また、エリア拡大の方向性としては、日本国内での知名度を上げていくというより、アジアに近いという地の利を活かし、海外に向けて和菓子のおいしさをもっと広く伝えていきたいという思いもあります。
日本食はもちろんですが、日本のパンや洋菓子はアジアのなかでも評価が高く、輸出されたり、アジアから技術を学びに来たりする職人も多いですが、和菓子については知名度も低く、そうした前例も少ないと感じています。
味に自信があるからこそ、日本文化としての和菓子を海外に広げ、創業100年の和菓子店として展開の可能性を広げていきたいと考えています。
●代表取締役・鬼頭 麦
千葉県柏市出身。明治大学を卒業後、東京で証券会社に勤務。2012年11月八女市に移住し、隆勝堂フーズ株式会社の取締役に就任。製造・販売・人事など現場の業務をひと通り経験したのち、同社の企業改革や経営推進に取り組む。2022年6月、代表取締役社長に就任。2023年に創業100年を迎える同社の未来を見据え、八女・筑後地区を大切にしつつも、地元だけにとらわれない柔軟な発想で商品企画や営業展開を行っている。
企業情報
隆勝堂フーズ株式会社
■TEL: 0120-843-555
■住所:福岡県八女市大字蒲原729-1 [MAP]
■HP: https://www.ryushodo.com/
■LINE公式ID:@ryushodo