多様性を受容する仕事づくりと職場づくりで、アウトソーシングの数だけ課題解決の可能性を広げる【株式会社マイソル/福岡市博多区】

株式会社マイソル 代表取締役CEO 福澤 久(ふくざわひさし)氏

 

『株式会社マイソル』(福岡市博多区)は、「自分らしく働く多様性のある社会を実現する」というミッションのもと、2017年に設立された社会課題解決型の人材サービス会社です。

 

LGBTQ、障がい、ひとり親など、あらゆる背景から生出される「働きづらさ」を解消し、多様なスペックを持つ人材が社会の力としてより一層活躍していくために、通販企業のコンタクトセンター業務、WEBやCAD制作などのアウトソーシング事業で、多様な雇用を創出しています。

 

「仕事」に人を合わせるのではなく、「人」に業務の領域を合わせていく仕事づくり、また“社員全員が強みを発揮し、お互いに認め合う組織づくり”に取り組んでいる福澤 久代表に、同社を設立するに至ったいきさつや「ソーシャル・ビジネス」への思い、現在の課題や今後の目標などを聞きました。

 

「株式会社マイソル」を立ち上げる前は、どんな仕事をされていましたか。

創業メンバーの松本氏(左)、阿南氏(中央)

 

もともとはミュージシャンとして、東京で活動していました。セカンドキャリアとして仕事をするなら「何か社会的な貢献ができる職業がいいな」と思い、故郷の福岡に戻ってきました。

 

音楽を辞めようとしていた時期に、いろんなご縁から東京の大手企業コールセンターで営業やマネージメントをさせていただいた経験から、2009年に女性の就労支援をしている地場の人材サービス会社に入社しました。そのとき私を採用してくれたのが、現在の副社長阿南です。

 

では、福澤代表が御社を立ち上げようと思われたきっかけは何でしょう。

岡田昌治氏(左)、Muhammad Yunus氏(右)

 

発端は、その会社の顧問もされていた九州大学の岡田昌治先生(※)との出会いで、ソーシャル・ビジネスという考えに出合ったことです。

 

ソーシャル・ビジネスとは、2006 年にノーベル平和賞を受賞した経済学者ムハマド・ユヌス博士が提唱・実践者している考え方で、さまざまな社会課題を持続性のあるビジネスによって解決していこうというものです。

 

そのときはまだソーシャル・ビジネスと、ボランティアやNPOとの違いもあまりよくわかっていませんでしたが、その後、管理者としてアウトソーシング事業の立ち上げに携わるなかで経験した3つのできごとが、弊社を立ち上げる大きなきっかけになりました。

 

※『ユヌス& 椎木ソーシャル・ ビジネス研究センター(SBRC)』のエグゼクティブ・ディレクターおよび特任教授。九州大学は2007 年に、グラミン・グループ(ムハマド・ユヌス博士が創設したグラミン銀行から発展した、非営利を含む多角的なベンチャー企業の集合体)と交流協定を締結し、2011 年に同センターを設立。日本初のユヌスセンターとして、国内外のさまざまな機関や企業などと連携し、ソーシャル・ビジネスを推進するための活動を展開している。

 

3つのきっかけについて教えてください。

コンタクトセンター内の様子

 

1つは、コールセンターに応募してきた、耳が不自由な女性との出会いから得た「気づき」です。

 

面接ではじめて彼女の耳が不自由なことに気づいたのですが、コールセンターは耳も口も使う仕事ですから、不採用にせざるをえないかと思っていました。しかし、面接してみると、彼女のコミュニケーションやビジネススキルが非常に高いことがわかりました。

 

そこで採用し、コールセンター業務を、電話応対と、伝票入力に分け、彼女に伝票入力をお願いしたのです。すると、チーム全体の作業効率がグンと上がったんです。例えば電話チームはそれまで5しか対応出来なかった電話が10対応できるようになったり、伝票入力の効率も上がったため、別の入力業務を受注する余裕生まれました。

 

つまり、彼女の障がいは会社にとってハンデになるどころか業績的にもプラスになり、周囲のスタッフも積極的に彼女とコミュニケーションをとっていったことで、チーム全体の雰囲気もよくなりました。

 

 

2つ目は、セクシャルマイノリティの人たちに対する理解や配慮が足りなかったことへの「後悔」です。

 

このとき面接したのは、女性の体で生まれたけれど、男性として生きていこうとしている方でした。好感を持ちながら面接を進めていたのですが、「最後に何か質問は」と聞くと、声を震わせながら自分の背景を語り、働くうえで自身の背景は、差支えがないかいう内容のことを聞いてきました。

 

そのとき私は、応募者が履歴書の性別欄に○を付けていなかった本当の理由がわかりハッとしました。
この応募者はこれまでいろんな会社の面接に出向いては、私に聞いた質問を聞いてきたに違いありません。だとすれば、「そんな状況をまずは自分のところから変えてみよう」と、採用の連絡をしましたが、最終的に辞退の返事が来ました。今思えば、この応募者が採用を辞退したの私の理解不足や社内の整備不足が要因の一つだったのかもしれません。

 

3つ目は、ある日会社を辞めた取引先の担当者からカミングアウトの経験です。

 

その時は事情を知らなかったのですが、後日その人と会って食事をしたときに、自身のセクシュアリティを打ち明けてくれたのです。

 

当時はまだLGBTQ(※)という認識が今ほど一般的ではなかったため、私自身もそのとき改めて、就労の場でセクシャルマイノリティの人たちが抱えている問題がたくさんあることを知りました。実はその彼が、弊社の現取締役の松本です。

 

※Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)、QueerやQuestioning(クイアやクエスチョニング)の頭文字をとった言葉で、セクシャルマイノリティ(性的少数者)を表す総称のとしても使われる

 

起業後は、どのように事業を軌道に乗せていきましたか。

 

まずは私一人で起業し、大名の『Fukuoka Growth Next』(※)に入居しました。そこから同じく女性の就労支援に携わり、ソーシャル・ビジネスへの関心という共通項があった阿南や、セクシャルマイノリティが抱える社会的背景などを知るきっかけとなった松本にも合流してもらい、「多様性」をコンセプトにしたアウトソーシング事業を立ち上げました。

 

働くうえでの見えない壁は、あらゆる背景を抱える幅広い人たちににもあるだろうと考え、社会的マイノリティといわれる人たち全般の就労を目的とする人材ビジネスアウトソーシング事業をしていくことに決めました。そして、まずは博多駅の小さな事務所でコンタクトセンターを開設しました。

 

※豊かな未来を創造するアイデアを持ったスタートアップ企業を支援する福岡市の施設

 

起業したときの周囲の反響はいかがでしたか?

 

ちょうどダイバーシティ経営や、女性活躍推進という考え方が注目されてきた時期だったため、関心や興味をもってくださる方も多く、開業後、順調にビジネスが推進できたのは弊社のコンセプトに共感してくださる企業さまが多かったからだと思います。

 

博多駅前の現在のオフィス

 

自分たちの考えを信じて続けているうちに、社会の流れや理解してくれる人も次第に増えてきたという感じでおかげさまで開業後3年目にはセンターは3拠点にまで増えました。

 

これ以上拠点が分散すると支障がでてくると考え、現在の事務所に引っ越す際にセンターを一カ所に集約しました。今では福岡県近郊を中心に、複数社からアウトソーシング業務の依頼をいただいています。

 

御社のコンセプトそのものがSDGsに合致していますが、SDGsについてはどうお考えですか。また、設立から6年で周囲の環境や考え方が変化していると感じる点はありますか。

 

弊社は、もともとソーシャル・ビジネスとして出発したため、自分たちの取り組みがSDGsだという認識はあまりなく、結果的にSDGsにも紐づいていたという感覚です。

 

周囲の変化に関しては、「SDGs」と「ソーシャル・ビジネス」のどちらにも似たような印象を持っています。
2018年・2019年ごろは、ワードとしての斬新さから「何それ、やってみよう」という感じでしたが、今は社会課題を解決するような事業でなければ、誰からも見向きされない時代になっています。また、ソーシャル・ネイティブの若い起業家にとって、SDGsもあえて声高に打ち出すものではなくなってきています。

 

それでは、具体的な御社の取り組みについて教えてください。求人応募の履歴書における性別欄記入・写真提出を不要にされていますね。

 

性別欄記入不要は、かつての反省が元になっていますが、伝わる人にはダイレクトに伝わるサインです。通称名可については、その人が性別違和の場合、名前を呼ばれるたびに自分の性を認識しなければならなくなります。

 

その点、通称名を使うことができれば、自分にとって違和感のない名前で働くことができると考えています。その他にもカミングアウトの希望やパートナー制度の導入、社内研修の実施などを行っています。

 

こうした項目を求人要件に掲載しておくことで、応募者の不安感も取り除くことができると考えています。

 

就業者には、具体的にどんなサポートをされていますか。

採用~就業中にて、実際に取り組まれている研修等の内容

 

弊社では、就業規則などの社内規定や、休暇や福利厚生にもパートナー制度を取り入れています。また、ガイドラインにさまざまな背景をもつ社員に対する差別的な言動をしないよう明記し、入社時には全社員にダイバーシティ&インクルーシブ研修を受けてもらいます。

 

これは、自社オリジナルのプログラムとe-ラーニングを組み合わせたもので、実際に社員として働いている当事者の声を聴く場も設けています。

また、社員同士がざっくばらんに自己紹介をし合うオリエンテーションを、3カ月に1回ほど任意参加で行っています。これは、それまで言えずにいた自分の背景を話してみようかなと思える機会にもなっていて、社員同士を認め合い、関係性をよくすることにも役立っています。

 

多様性を認めているからこそ起こる問題や難しさはありますか。

 

「仕事」に人を合わせるのではなく、「人」に仕事を合わせていくという考え方で組織づくりを行っているので、業務の棚卸しを行い、可能な領域や仕事内容を明確にしていき、運用しては検証し、組織として円滑に稼動するまで、トライ&エラーが続きます。

 

チームメンバーの同意を得て、細やかな配慮も必要ですから、丁寧なマネジメントは必要になってきます。そこに費やす時間やパワーの確保は、大変だと感じることはあります。しかし、長期的に見ると、この丁寧さは、確実にプラスに働いていってますね。

 

アウトソーシング事業を通した、御社の今後の夢を教えてください。

 

私たちは社会課題を解決していくために、このビジネスを始めました。ですから、弊社の社内で多様性が生まれるだけでは、社会は何も変わりません。

 

その点、コンタクトセンターの強みは、地域を選ばず業務を依頼いただけることです。
アウトソーシングされた業務を内製化し、クライアントさまにお戻しするだけでなく、採用の仕組みなども一緒にお戻ししていければ、福岡でしか解決できなかった社会的マイノリティの人たちの働きづらさを、他の地域でも解決できるかもしれません。
いわば、アウトソーシングの数だけ社会が変わっていく可能性が広がるのです。

 

リエートス設立発表の様子

 

まずは、私たちの取り組みを全国の方に知ってもらうことが必要です。しかし、弊社だけでやれることには限界があるため、ソーシャル・ビジネスを共通項とする経営者とともに『リエートス』という社団法人をつくり活動を始めました。

 

全国から社会課題に興味を持ち、取り組んでいる企業が集まってくるため、そうした場で弊社の取り組みを知っていただくことで、「ソーシャル・バリューの高いアウトソーシング会社」として、より広い規模で、社会課題を解決していける事業展開をしていきたいと考えています。

 

●代表取締役 CEO・福澤 久

音楽大学を経てジャズミュージシャンとして活動する傍ら、東京の大手コールセンター会社にて管理運営および営業に携わる。その後、出身地である福岡に戻り、福岡地場の人材サービス会社に入社。社内ベンチャーとしてアウトソーシングコールセンターの新規立ち上げを行う一方で、コールセンターに係る教育研修、システム運用、運営コンサル支援などの業務を担当し、九州大学と連携し産学連携コールセンターなどの新サービスの開発にも携わる。ミュージシャン時代や人材サービス会社勤務時の経験から、就労環境にセクシュアリティや様々な社会背景が関係していることに気づいたことをきっかけに、2017年8月、社会課題解決型の人材サービス会社『株式会社マイソル』を設立。現在は、社会起業家を支えるコミュニティ『一般社団法人リエートス』の代表理事も務める。

 

企業情報

株式会社マイソル
■TEL: 092-986-7980
■住所:福岡市博多区博多駅東2-5-28 博多偕成ビル4F [MAP]
■HP: https://misol-sb.co.jp/