国内トップの草刈機メーカーから、持続可能な農業に寄与する有機農産物普及業へ【株式会社オーレックホールディングス/八女郡広川町】

株式会社オーレックホールディングス 代表取締役社長 今村 健二氏

創業以来、「草と共に生きる」というコンセプトのもと、小型農業機械の開発・製造・販売を中心に事業を展開してきた株式会社オーレックホールディングス(八女郡広川町)。

 

徹底的な現場主義をもとに、卓越したアイデアとそれを実現する技術力で生み出された同社の製品は、あぜの上面・側面を同時に刈れる歩行タイプの草刈機、ゴーカート型の乗用草刈機など、いずれも「業界初」で、農業や緑地管理分野において国内トップシェアを誇るものばかり。日本国内のみならず、ヨーロッパやアメリカなど海外でも数多くのユーザーに愛されています。

 

草刈機は、有機農法の一つである「草生栽培」になくてはならないもの。小型農業用機械の開発製造を通して、安全・安心な食を支える農業に貢献してきた代表取締役社長・今村 健二氏に、同社の歴史や、持続可能な農業の実現に向けた熱い思いをお尋ねしました。

 

まずは御社の成り立ちと、今村社長の経歴を教えてください。

 

弊社は、1948 (昭和23) 年に大橋農機製作所として創業しました。私の父が父の弟と「重労働である農作業を少しでも楽にしたい」と始めた鉄工所で、当初は水田に水をくみ上げるバーチカルポンプや、当時貴重な有機肥料でもあったクリークの泥土を組み上げる機械をつくっていました。しかし、それだけでは田植えの時期しか商売にならない。そこで農業で1年中必要なものは何かと考え、製造を始めたのが草刈機でした。

 

私が入社したのは、ちょうど会社が30周年を迎えた1976年ごろ。当時は、九州内の農家だけをターゲットにした小さな会社でした。
工場を遊び場にして育った私はもともと機械好きでしたが、工場を継ぐ気はまったくなく、パイロットに憧れていました。しかし、大学時代に起きた第一次オイルショックで航空会社への就職の道が断たれてしまい、半ばしかたなく(笑)、父の会社に入る決意をしたのです。

 

社長自ら、数々のヒット商品を開発されていますね。

 

大学では機械工学科だったので、会社では設計の仕事をさせてもらえると思っていました。すると、営業もしろといわれまして、最初は佐賀など九州内を営業して回っていましたが、九州だけを相手にしていても、今後の展開に広がりがない。誰もやらないなら自分がやろうと思い、トラックを運転し、関東に身一つで乗りこみました。

 

営業を始めたものの、会社の知名度もなく、全然相手にしてもらえない(笑)。また、弊社の製品はもともと九州の農業環境に合わせてつくられていたため、他エリアでは製品が売れても故障が多く、クレームだらけでした。

 

 

そこで、各地の販売店でお客さまの声を聞きながら修理を続け、自分で設計図を描きながら、製品をどんどん改良していったのです。
たまたま私自身が技術者で、厳しい状況のなかで追い詰められたからこそ、製品開発と営業開拓の両方を一緒にできたのだと思います。

 

この時の経験が、「現場で農家の方々の困りごとに耳を傾け、とことん寄り添った製品を開発する」、そして、「世の中に役立つものを誰よりも先に創る」という現在の企業姿勢につながっています。

 

御社の代表的なヒット商品について教えてください。

あぜ道の上面側面を同時に草刈りできる「ウイングモアー」。

 

1つは、あぜ道用の草刈機『ウイングモアー』です。これは長野の販売店に行った時に、あぜ道の草刈りに困っているという人の話を聞き、実際にその大変さを体感したことから生まれました。関東・東北・北海道などでは、冬場の冷害から稲を守るため、あぜの高低差が大きくなっています。『ウイングモアー』は、それまではできなかったあぜの上面と側面の草刈りを同時に刈ることができます。

 

斜面の上から長い法面の草刈り作業ができる「スパイダーモアー」

 

また、危険な事故も多い、長くて急な斜面の草刈り用に開発したのが『スパイダーモアー』です。世界最小の4輪駆動斜面草刈機で、クモのように斜面に張り付くため、ハンドルを伸ばすだけで、作業者に負担をかけず、安全な場所を歩きながら走行させることができます。

 

乗用タイプの草刈機「ラビットモアー」

 

そして、果樹園用の草刈機として爆発的にヒットしたのが『ラビットモアー』です。果樹園では、実がついてくるとだんだん枝が下がってくるため、歩行型の草刈機では体勢的にも負担が大きく使い勝手が悪いのです。特に夏場は、暑いし、きついし、刈った草と砂煙で埃だらけになってしまう。そんな大変で誰もやりたがらない草刈りを、楽しく楽に変えたのがゴーカート型の『ラビットモアー』。開発には約3年を要しました。

 

丈夫で、段差やでこぼこがある場所や斜面でも走行でき、ぬかるみからも自力で脱出できるような機能も備えており、車体も低いので、枝の下でも身をかがめる必要がなく、目で確認しながら草を刈れます。運転も簡単で何より楽しいので、今まで草刈りが嫌で逃げていた子どもが自ら進んで草刈りをしてくれる「親孝行な機械」といわれ、大変喜ばれました。

 

いずれも国内トップシェアを誇る商品とのことですが、そうした画期的な商品を次々と生み出せる秘訣は何でしょう。

 

やはり社員自らが各地の農家の方の現場にどんどん入っていき、実際に見て、体験したことをもとに、商品を開発しているからではないでしょうか。そして、性能・機能・使いやすさのいずれにおいても、他社より一歩も二歩も先を行く「業界初」の画期的な商品を作り続けることです。

 

私が社長になって35年目。農業人口も減り、国内の農業機械の売り上げも半分以下になりましたが、弊社の売り上げは例外的に約7倍になりました。これはひとえに、まだ市場にないもの、そして農家の方々が待ち望んでいるニーズに応えることを、果敢に心がけてきたからだと自負しています。

 

有機農法の一つ「草生栽培」に必要な草刈機の製造は、それ自体がSDGsにつながっているといえますね。

 

弊社では、50年近く前から草刈機を製造していますが、当時の農業は除草剤全盛期で、草刈機はあまり売れていませんでした。しかし、果樹園などで実がならない、なっても実が小さい、糖度が低い、冷害で枯れやすいなど、除草剤による弊害がいろいろと出始めたのです。

 

果樹園は山の斜面にあることが多いのですが、そうした場所では除草剤で草が枯れた結果、表土が流出して植物が根付かなくなってしまいました。そこで農林省が45年ほど前から推進しはじめたのが、農地に草を生やす「草生栽培」です。これが除草剤を使わない有機栽培の始まりでもあります。

 

とはいえ、有機農業に取り組んでいる農家の方の割合はいまだに0.6%しかないそうです。特に、水田内の草刈りは機械では難しいため、稲作では0.1%、つまりお米農家の方の99.9%が除草剤を使っています。

 

株間も条間もくまなく除草する業界初機構「WEED MAN(ウィードマン)」

 

私たちは、草刈機の開発を通してその事実を知り、驚きました。そして、14年の歳月をかけ開発に取り組み、6年前やっと完成にこぎつけたのが、水田用の除草機『WEED MAN(ウィードマン)』です。

 

水田用除草機を開発するのは、そんなに開発が難しかったのですか。

 

水田用の除草機がなかったわけありません。ギザギザのついた車輪を手で押しながら泥をかき回す『田車』など、稲と稲の間(条間)の草が取れる古典的なものはありました。ただ、そうしたものでは稲の根元の草までは取れず、有機で米をつくるためには人手に頼るしかありませんでした。しかし、東北地方のような大規模水田でそれも現実的には限りなく不可能なのです。

 

他社は、開発の困難さから参入していませんでしたが、長期的視点で見ると、誰かがやるしかない。いつまでも、除草剤・農薬・化学肥料に頼る農業が続くわけがありませんから。

 

 

会社の未来を担う社員を育てるという意味で、私自身はこの開発に携わらなかったのですが、何度も失敗を繰り返すなかで、内心あきらめようと思ったことは何度もありました。
期待に応え、完成させてくれた社員を心から誇りに思います。2021年3月、農林水産省が発表した『みどりの食料システム戦略』(※)を受け、確実にスポットライトが当たりつつあります。

 

※農林水産省が、持続可能な食料システム構築のために発表した政策。2050年に向けて、「輸⼊原料や化⽯燃料を原料とした化学肥料の使⽤量を30%低減」「耕地⾯積に占める有機農業の取組⾯積の割合を25%(100万ha)に拡⼤」「2030年までに⾷品製造業の労働⽣産性最低3割向上」などを目指す

 

SDGsについての社長のお考えをお聞かせください。

 

SDGsは持続可能な社会を実現するために17の目標を掲げていますが、弊社では特に「持続可能な農業」に焦点をあて、課題解決に取り組んでいきたいと考えています。

 

草生栽培における草刈りに関しては、これまでも日本で一番貢献しているという自信はありますが、より多くの農家で有機栽培を実現していくためには、草刈りだけでは不十分です。そのため、弊社では、10数年前から農業に軸足を置いた新規事業をいろいろと展開しています。

 

 

具体的には、「食」「環境」「健康」という観点から、畜舎内の環境改善に取り組む畜産消臭事業、種ごと食べられるスイカ生産用花粉の製造・販売を行う花粉事業、家庭菜園に関する情報交換や交流を目的とした『菜園ナビ』などのIT事業、生産者と消費者をつなぐECサイト『コダワリノワ。』の運営を行うDM(ダイレクトマーケティング)事業などです。
同時に、環境保全の観点から自動車と同様に、農業機械のエンジンを電動化していく取り組みも始めています。

 

SDGsに関する取り組みをしていくにあたって、難しいと感じている点はありますか。

新しいことをするにあたっては、これまでの社員の意識を変えなければなりません。私が新規事業の話をしてもピンとこないうえに、強引に進めすぎると反対され、思うように動かないこともあります(笑)

 

新規事業は、若手社員からやりたい人を選抜し進めていましたが、他の社員から「給料泥棒」といわれたりもしたそうです。まずは社員の意識を変えながら、同時に新しい事業を軌道に乗せていくことが大事だと感じています。

 

地域社会への貢献については、どんなことをされていますか。

OREC FESTIVALの様子

 

工場見学、近隣小学校での草刈り体験授業、『OREC FESTIVAL』や、熊本・福岡での草刈りボランティアなどを行っています。
『OREC FESTIVAL』は、地域住民の方に休日ご家族で来ていただき、弊社の敷地内で草刈機の試乗体験や工場見学などをしていただき、遊びながら農業機械の生産現場を知っていただこうというものです。

 

ピーク時は来場者3,000人と周辺が渋滞するほど大盛況で、今年は3年ぶりに10月末の土曜日に開催予定です。FESTIVALは、お客さまに直接触れる機会が少ない社員にとっても、ホスピタリティを学んでもらうための貴重な場にもなっています。

 

『OREC green lab』について教えてください。

1店舗目となる「OREC green lab 長野」

 

『OREC green lab』は、2016年5月に長野県長野市、2017年12月に青森県弘前市に、ショールーム型の営業所としてオープンしました。どちらも弊社の草刈機をご愛顧いただいているりんご産地の近くに立地しており、農家のみなさまが気軽に立ち寄り、会議やセミナーなども行っていただける地域コミュニティの場として誕生しました。

 

福岡市中央区赤坂の交差点に立地する「OREC green lab 福岡」

 

それに対して、2019年10月、福岡市中央区赤坂にオープンした『OREC green lab福岡』は、「人」と「農業・自然」とのつながりを身近に感じていただけるカフェスタイル型のブランド発信拠点です。

 

1階~3階はカフェとしてご利用いただけ、2階では農薬不使用で育てられた素材を使った食べ物やドリンクメニューを楽しみながら、有機農業の専門図書なども閲覧していただけます。3階は、イベントスペースとして利用でき、有機野菜のマルシェや、農業や安全・安心な食にまつわるセミナーやイベントなどを行っています。

 

 

カフェで提供しているのは、安全・安心な素材にこだわった『OREC green lab 福岡』オリジナルのメニューで、ECサイトで取り扱いをしている「コダワリノワ」の商品も一部販売しています。
店舗の運営・企画は、弊社の社員である専任スタッフがすべて行なっています。

 

街中にある『OREC green lab福岡』に対するお客さまの反応はいかがですか。

 

反応は予想以上にいいですね。以前は、福岡市内でも弊社の名前を知らず、何の会社か知らない方が多かったのですが、『OREC green lab福岡』のオープン後は、テレビ・新聞・雑誌でみたという人が多く、それだけでもPR効果は絶大だと実感しています。

 

安全・安心な食べ物や飲み物を提供するだけでなく、有機農業や有機食材に関する情報を得られる場所としてのビジネスモデルを構築し、やがては東京・大阪でも、都会型の『OREC green lab』を展開していければと考えています。

 

御社は今年10月に創業75周年を迎えられます。最後に、株式会社オーレックホールディングスとしての今後の展望をお聞かせください。

 

弊社は、今ちょうど草刈機製造会社から、草刈機以外の分野でも持続可能な有機農業の推進や普及に貢献していける有機農産物普及業へと発展・変容をしている最中です。2023年1月からスタートしたホールディングス体制はそのためのものです。

 

これを機に、これまで本社のみで進めてきた新規事業の分社化や、目的を同じにする企業とのM&A、パートナーシップを結んで協業および、産官学の連携もしやすくなりました。今後はグループ企業同士互いに相乗効果を生みながら、有機農産の推進速度を加速させていきます。

 

2・3年のうちには発表できると思いますが、各分野の専門家とパートナーシップを結び、地元の有機農業を応援するような事業も計画中です。有機農業の経験がない方でも、私どもの機械・設備・ノウハウを提供し、比較的簡単に有機農法を始められるような、生産者への支援もしていく予定です。

 

●代表取締役社長 今村 健二

明治大学工学部機械工学科を卒業後、父である今村隆起前社長が創業した大橋農機製作所に入社。営業兼技術者として関東・東北地域を中心に農機具販売店や農家を回りながら、農業従事者の声に耳を傾けて「業界初」のヒット商品を次々と生み出し、同社を草刈機部門で国内トップシェアを誇る全国区の小型農業機械メーカーへと成長させる。

 

1988年、社長交代に際して、株式会社オーレックへと社名を変更。「草と共に生きる」というコンセプトのもと、日本国内のみならず、ヨーロッパ・アメリカなどを中心に、海外へも販路を拡大。近年では、農業に軸足を置いた新たな事業の創造にも取り組み、2023年1月、同社を有機農業と有機農産物の普及推進を目指し持株会社体制へ。株式会社オーレックホールディングスとして、自然や環境と調和した持続可能な社会の貢献のために邁進中。今年10月に創業75周年を迎える。

 

企業情報

株式会社オーレックホールディングス
■TEL: 0943-32-5002(代)
■住所:八女郡広川町日吉548-22 [MAP]
■HP: https://www.orec.holdings/
■Facebook:https://www.facebook.com/orecCorporation/